第4話

文字数 870文字

怪物、いやそんな言葉では生易(なまやさ)しすぎる。

と表現した方が適切であると確信した。

今まさに悪魔は俺に取引を持ち掛けられている。俺の力が欲しいと、随分と過大評価されたもんだ。自分は大した人間ではない。
金使いが荒く博打好きのぐーたら探偵だ。


自分を過小評価し過ぎですよ、元防衛局中佐の叔父さん


士官学校を主席で卒業、国家防衛局で数々の功績を上げて、十七年後に退職。他に類を見ない凄腕の持ち主ですよ


どこで調べたか知らないが気に入らない


でも折角の経歴を捨てて軍を辞めてしまったのか、私はそこが気になるんですよ


別にいいだろ


仕事が気に入らなかった?給料が気に入らなかった?上司との関係?


うるさい


責任というのは非常に厄介、叔父さんも辛かったでしょう


黙れ!


やはりあの事件が…


止めろ!それ以上喋るな!








探偵は事務所で一人ソファーにもたれかかりながら冷えきった珈琲をすすりシミだらけの天井を見上げた。
あいつとの会話は予想以上に気力と体力を奪った。自分の心臓を握り潰され、心の底から恐怖で染め上げるかのように…
 

「今日はこの辺でお(いとま)させていただきますね。今度は助手さんにも会わせて下さいね、本人は覚えてないと思いますけど」
商人は笑顔で事務所の扉に手を掛けた。
「それではまた近い内にお会いしましょう、ユベール叔父さん」


今日は本当に疲れた、ここ数年で一番の疲労感だ。探偵は珈琲を一気に飲み込んだ。こんな体験はもうこりごりだ。

突如事務所の扉が開いて助手が勢いよく飛び出してきた。
「只今帰りました先生。仕事を沢山貰って来ました!」

探偵は手で目を覆いため息をついた。

「これでこの事務所も暫くは暮らしていけるぐらいの仕事量です。先生、一緒に頑張りましょうね!」
 
悪魔はここにもいた、もう家に帰りたい





               第5章
           悪魔とのの取引
                 完
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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