第3話

文字数 886文字

一週間がたった。
青年の故郷に向かいべく始発のバスに乗りそこから駅馬車へ、残りは村へ行く荷馬車を捕まえて小一時間。
半日を要してたどり着いた。
「ここです」
うっそうと生い茂る木々と辺りを真っ白に染める霧を青年は指差した。
「この道を辿れば着くはずなんです」
確かに道はある、獣道の様な道が森の奥へと続いている。

「進んでもどうしてもこの場所に戻ってしまう」

「さて、始めるか」
探偵は背負っていたバックを地面に置き、中を漁った。
「これが秘密道具だ」
助手に手渡した。
「これって…」
「縄だ」
「これをどうしろと?」
「縄使い方を知らないのか?縛るに決まっているだろ」
探偵はバックを背負い直し、助手の胴体を縛った。
「先生何するんですか」
助手は怒り始めたがそれを無視して青年も縛り始めた。
青年を縛ったあと自らも縛った、一つの縄で三人が繋がった。
「出発する前にあれを」
探偵は青年の前に手を出した。
青年は肩に掛けたバックから封筒と便箋を取り出した。
「受け取る前に最後の確認だ、後戻りは出来ないぞ」
「彼女に会えるのなら後悔はしません」
青年は真っ直ぐと探偵の顔を見て言った。
よろしい 探偵は二つを受け取り森の奥へ進んだ。

数分も経たなかった、目の前に木造の小屋が見えた。
「あれです、間違えありません」
青年は興奮を抑える様に言った。
「あそこに、あそこに彼女がいます」
探偵はズボンのポケットから折り畳みナイフを取り出し青年の縄をほどいた。
足早に小屋へ急ぎ、扉の前で止まった。
鼓動を落ち着かせるために深呼吸をし、ゆっくりとドアノブに手を掛け中へ入った。
「先生、私もほどいて下さい」
うるさいのでほどいてやった。
助手は小屋の窓が見える所まで近づいた。

窓辺に彼女がいる、少年が言っていた様に美しい女性が…

「仕事は終わった、帰るぞ」
「先生…あれって…」
「俺たちができるのはここまでだ」

青年が彼女と話している

「俺たちにはもうどうしようもできない」
探偵は呟くように言って二人はこの場を去った。

                
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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