第2話

文字数 2,241文字

「少佐、全て準備が整いました」マレーの部下たちは敬礼した。
「ご苦労、お前たちは外で待っていろ」指示を出した。
「マレー…テレビ…テレビじゃあ…」探偵は戸惑っている。
部屋に置かれたのはタイプライターが付いたテレビの様な物とそれにコードで繋がっている冷蔵庫程の大きさの得体の知れない箱が置かれた。

テレビじゃない

今まで興奮していた探偵と滝の様に泣いていた助手は静まりかえった。
マレーは得体の知れない機械に指差した。
「ご紹介しよう、これはかの大国レガリスが作り出した最新機器、その名も電子演算機またの名を

だ」

探偵と助手は立ち止まって放心状態だった。
電子…演算?パソ…コン?
「テ、テレビは…テレビ…」助手は目が虚ろで震えた声でマレーの腕を掴んでいるが掴む力が弱々しかった。
「チャシャちゃんとりあえずここに座ろうか」
マレーは放心状態の助手をソファーに誘導して座らせた。
画面は黒く、緑色の枠が映し出されていた。
「とりあえず…そうだな、自分の名前を打ってみよう。仕組みはタイプライターと同じだ、さあ打ってみて」
マレーは助手の手をボタンの上に添えた。
ボタンはタイプライターと配置が違うし変なボタンもいくつかあるが文字はこの国と同じの様だ。
とりあえず言われた通りに…チャシャ・ブラウス
(テレビじゃない…)

『チャシャ・ブラウス』

すると画面に緑色で自分の名前が表示された。
「すごい」助手が少し声色が明るくなった。
「すごいでしょう。もっと何か打ってみて」
マレーは機嫌を取るかの様に言った。

『食べるのが好き
今日はコッペパンと目玉焼きサンド、フルーツサンド、リンゴ2個、焼き栗、ハムカツ2個食べた』

とりあえず今日食べた内容を打った。
「じゃあこのボタンを押してみて」
マレーに言われた通りに指定されたボタンを押した。
すると冷蔵庫の様な箱の機械から聞いたことのないけたたましい音が鳴り響き助手は驚いた。
その音は数秒で収まり機械が紙を吐き出した。
マレーはその紙を助手に渡した。

チャシャ・ブラウス

食べるのが好き
今日はコッペパンと目玉焼きサンド、フルーツサンド、リンゴ2個、焼き栗、ハムカツ2個食べた

今打った文章が紙に書かれている。
「こ、これって一体…」
「小型の印刷機だよ。今そのパソコンで打った文書がこの印刷機を通して紙に印刷されるんだ。タイプライターと違って途中で打ち間違えちゃっても修正出きるんだ、すごいでしょ」

(すごい…エミールさんが前に言っていたのはこれだったんだ)
「マレーさん…これ、すごいです。とってもすごい…」助手が感激してマレーの手を握ろうとした時。
「何がすごいじゃ!馬鹿野郎!」
マレーは探偵の拳を顔面に食らい床に倒れ込んだ。
すかさずマレーの部下たちは探偵を取り押さえようとしたが、呆気なく弾き飛ばされた。
探偵は倒れ込んだマレーの胸ぐらを掴んだ。
「何がパソコンだ!何が印刷機だ!こんなもん飯の足しにもなりゃしねぇ!」怒りが頂点に達している。
「ユ、ユベール落ち着け、一旦深呼吸をしろ。俺も日頃助けて貰ってるお前に買ってあげようとしたけど流石に俺でもテレビは手が出せなくて…」
「テレビの代わりにへんてこな機械寄越しやがって、でかくて邪魔だ、さっさと持って帰れ!」
探偵はマレーを揺さぶった。
「落ち着け、本当に落ち着け。先ず話だけでも聞いてくれ」
「先生、一旦落ち着きましょう」助手もなだめに入った。
「チッ仕方ない話だけでも聞こうじゃないの」
探偵はマレーの胸ぐらを放し話を聞くだけの余裕が出てきた。
「こいつは今この国に導入しようか検討している最中で今この国にまだ数台しかない、これがそのうちの一台だ」
「どうせ大金積まれて買わされたお古なんだろう」
「確かにあっち(レガリス)で十年以上埃を被ってたらしくて抱き合わせで買わされた物だ」
マレーは探偵に殴られた頬を抑えながら答えた。
「で、何でこんな粗大ゴミを俺の所に持ってきたんだ」探偵はまたイライラがたまってきた。
「国が本格的に利用する前に試験運用を行ってるんだかお前にも手伝ってもらおうかと思ってた持ってきた。

、使ってみて感想を聞かせてくれ」
「めんどくさい、第一俺は使わないぞ」
「お前には最初から期待してない。今回はチャシャちゃんに使って感想を聞かせてもらいたいんだ」
「私ですか?」助手は驚いた。
「私みたいのか使っていいのですか。こんな貴重な物を、それに私使い方も全然分からないし」戸惑っている。
「やめろチャシャ、こんな得体の知れない機械お前には扱えない。さっさと持って帰させろ」
マレーはここぞと言わんばかりにこの時を見逃さなかった。
「一週間使って感想を聞かせてもらったら三十万出す」
「チャシャ、ちゃんと使って感想を言ってやれ」
探偵は即答だった。
「せっ、先生」
お国(お金)のためだ、存分に使って感想を言ってやれ」
マレーは笑顔で手を合わせた。
「ありがとう助かるよ、分からないしことがあったら説明書を置いていくからこれ読んでね、じゃあこれで」
マレーは辞典程の厚さの説明書を置いて部下たちと一緒にそそくさと帰って行った。

「先生…」
助手は説明書の厚さを指先で触れて確かめながら探偵を見つめた。
「三十万…へっへっへ」探偵は不敵な笑みを浮かべた。

駄目だこの先生





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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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