第2話

文字数 954文字

重い腰を上げ、やっとの事でキッチンにたどり着いた探偵は真っ先に冷蔵庫を開けたが、そこには何も無く冷気だけが埋め込んであった。
次に戸棚を調べたが、これといってない。
塩…砂糖…片栗粉…食べかけのクルミ…闇市で面白半分で買った瓶に入った黒い液体…何だっけ?

「何かありましたか?」
助手は依然として動かずぐったりしたまま尋ねてきた。

「クルミがあった。だが二人で分けるには少な過ぎる。」
困った、今日さえ乗り越えればマレーの奴から金の工面ができるのだが…

クルミが入った袋を持ち考え込んでいると、ふと気配を感じ隣を見ると助手が下を向いて立っていた。
 探偵は驚き、少し飛び跳ねた。助手の様子がおかしい。
「おい…大丈夫か」

「……こせ」

「ん?」

「……を…こせ」

「お、おい」

「クルミを…よこせ!」

しまった、いつものやつ だ。
探偵は身構えた。

「こっちに寄越せ…じゃなきゃ…奪うまでだ!」

助手は探偵に飛び掛かってきた。
「よせ、やめろ落ち着け!」
探偵はなんとかとりおさえることに成功したが、依然として助手が抵抗する。何とかしなければ、その時ふと思い出した。
「そうだ、いいものがあったぞ。これで打開できる。」
 助手にまだ食うなと言ってなだめながらクルミの袋を助手に渡し自分の机に向かった。
「確かここに…」
 一番下の引き出しから焼き菓子の缶を取り出した。
 
「クッキーですか!やった…助かった」
助手は落ち着きを取り戻していた。
探偵が、缶を開けるとそこにはクッキーではなく白い粉が目一杯に詰められていた。
「何ですか…これ」
助手は気落ちした。

「この前、軍警察の仕事を頼まれて一緒に ヤクの取引の現場を押さえる事があってさ、結果は失敗、散々だったが現場にこれが置いてあったから貰ってきた。」

「じゃあこれってヤバいやつじゃないですか!」

「だと思うだろ、それが違うんだな」
探偵は白い粉が入った缶をキッチンまで運んだ。
「中身は小麦粉さ、どうやら密売人たちはこれを使って取引先を騙そうとしたんだ。記念にくれるって言ったから貰ってきたんだ、すっかり忘れてた」
探偵は腕まくりをし、調理の支度を始めた。
「さて、作りますか」


                
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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