第5話 前編
文字数 840文字
「リゴ…なんだ?」
「南西部のごく限られた地域の湿地に生息する貴重な虫だ。普段は休眠していて動物の死骸に群がり青白く光るんだ」
「そのリゴなんちゃらが今回の貢献者って訳だな」
「それが問題だ」
「何が」
「奴らは魂の匂いに集まる」
助手は震える手でソファーに座った男にカップを運んだ。
「ど、どうぞ…」
男は目の前に出されたカップを手に取り口に近づけた。男はフードを取って素顔を見せた、目付きが鋭く頬が痩せこけていた。
「これ…」
「ひっ、ごめんなさい。紅茶を切らしてまして、今珈琲しかないんです」
助手は怯えきっていた
「これは」
男は顔を近づけ、深く鼻で息を吸った。
「この香り…」
そのあと珈琲を口に含み、暫く沈黙が続いた
「間違えない」
男は口を開いた
探偵の説明にマレーは混乱し始めた。
「待て、魂に匂いなんてあるのか。第一、死体に集まるのならただのハエと変わらないじゃないか」
マレーは正論を言ったが探偵は補足を加えた
「俺は昆虫学者じゃないが論文を読んだ事がある。死骸を移した後もその場に集まる、吸魂虫は魂が対象から抜けた時の状態に集まる事が分かった、まるで対象の輪郭を捉えるように」
「それで魂の匂いがあると。ん、待てよ、被害者に集まるのは分かるが何故犯人にも虫が集まったんだ。それじゃまるで…」
「ああ、犯人は死んでいる」
マレーは驚きを隠せなかった。
「じゃあ犯人は幽霊なのか、驚いたな」
「いや、ただの幽霊じゃない。最初に陽炎石を使っただろ、あの時にはっきり映ってなかったが犯人の足跡と人影が映ったろ」
「ああそうなだな」
「陽炎石は質量のある物体だけを映す、霊的なものは映す事はできない」
「どういう事だ?」
探偵は頭をかきむしった。
「あの幽霊は
質量が存在する
って事だ」