第3話

文字数 1,625文字

「父とは何処で」
 店を閉めてレイニーは談話室で探偵に紅茶を出した。
「珈琲ないのか?」
 (こいつむかつく)
「まあいいか、親父さんだけじゃないお前の爺さんとも家族ぐるみの付き合いだった」
 探偵は紅茶に息を吹きかけた。
「私のはあなたの事を知らないけど」
「まだお前が小さかったからな、たまに親父さんと一緒に見かけたが、俺は直ぐに家を出たからな」
 (父さんと一緒に?)
 疑問が浮かぶだらけだった。
「あんた一体誰なの?」
 探偵は紅茶に息を吹きかけるのを止めた。
「俺はユベール・ロッシュ…Jr.だ」
 その名を聞き尋常じゃない怒りがこみ上げた。
 レイニーはテーブルの裏に隠した小型の銃を取り出し探偵に向けた。
「はー…やっぱりそうなるよな」
「あんたがあの

の一族なんて…今殺してやる」
「落ち着けって」
 探偵は紅茶に息を吹き掛けた。
「殺してやる…あんたの一族ものとも殺してやる!」
 紅茶にいまだに息を吹きかけてる。
「止めときな勝ち目がない。お前だって分かってるんだろ」
 レイニーは撃鉄を上げた。
 探偵はため息をついた。
「お前は俺には勝てない、その時点であいつらを倒す事すら出来ない」
「何を偉そうな事を、この状況であんたに勝ち目があるの!」
「バンザート製のガランザ二十一式六発装填の小型拳銃」
「それが何だって言うの」
「入ってないぞ」
「は?」
 探偵はポケットから六発の弾丸をテーブルに置いた。
 間違いなくこの銃の弾だ、薬室を確認した、空だった。
「俺なら薬室にもう一発装填するけどな」
 レイニーはゆっくりと銃を下ろした。
「まあ、茶でも飲んで落ち着け」
 探偵は冷めきった紅茶を飲んだ。

「俺は家族とは何十年も前に縁を切った、今はただのしがない探偵さ」
「それで…私に何か様なの?」
 お互いに向かい合って座り紅茶を飲んだ。
「最近少々派手過ぎだ、次やったら間違えなく死ぬぞ」
「あんたに何が分かるの」
 探偵は紅茶を飲みきった。
「家族の復讐、止めとけ何度も言うが勝ち目がない。相手が悪すぎる、国を裏で操れるぐらいの奴らだ。それとも単に取り戻したいのかあの絵を」
 レイニーはしばらく黙ってから口を開いた。
「最初は復讐心だった、母さんは病気で死んでおじいちゃんと父さんを殺されて私には復讐しかなかった…だから父さんが書いた絵を取り戻そうとしておじいちゃんの跡を継いた。父さんの絵が無名で美術館や豪邸に飾られているか分かる?」
「国の金の一部の隠し場所が暗号として書かれている。表に出せない金だ。

は分散させて隠している」
 探偵は簡単そうに答えた。
「そう…何でも知ってるのね」
 レイニーは探偵のカップに紅茶を入れた。
「父さんとおじいちゃんは

のお抱え絵師で二人ともよく私が描いた絵を誉めてくれた。母さんは魔術師で特に魔石を使った魔法が得意だった」
 レイニーは紅茶に映る自分の顔を見ていた。
「母さんが亡くなった後、父さんが仕事から帰って来ない事が日に日に増えてきた、おじいちゃんはその間私の面倒をみてくれた。私は学校の寮に住む事になりそれから父さんの姿を見ることがなかった。そんなある日おじいちゃんから手紙が届いた。父さんは殺され、家も燃やされた。仕えていた貴族に使用人含めて全員殺され、そして父さんはその貴族に殺される前に絵を書かされた、そこには国の国家資産の一部が隠されていて口封じで殺されたと」
「そして爺さんが親父さんの形見の絵を取り戻すために怪盗『黒雨』になったと」
 探偵は紅茶に息を吹き掛けながら聞いてきた。
「簡単に言えばそう、おじいちゃんは父さんが描いた絵を身を隠しながら探していた、絵は国中に散らばっていて厳重な警備がしかれていた。絵を取り戻しながらおじいちゃんは

を探していた」
「理由?」
「何故父さんの絵に暗号を描かせたのか、そして金は何の為に隠されたのか、おじいちゃんはその理由を探していた。そして私にその理由を話す前におじいちゃんは殺された、事故に見せかけて」
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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