第1話 前編

文字数 596文字

叩きつけるほどの雨が降る夜、ある一軒家の部屋に初老の男が天井の照明の明かりだけを頼りに机に置いたタイプライターと向き合っていた。

どれ位たったか、座りっぱなしで身体中がきしむ様に痛む、少し休憩にしようと椅子から立ち上がり雨が叩きつける窓から外を覗いた。窓の外は暗闇で見えず変わりに照明の明かりでぼんやりと室内と疲れた顔をした自分が映った。

 突然部屋の明かりが消えた、またかと思い男は部屋の扉の隣にある照明の電源をいじったが反応がない。この国の電力事情でよくあることだ、慌てず側に置いてある燭台に火をともし、もといた自分の机に戻る際窓ガラスに映る自分を見た、そして自分の後ろに誰かいる。

 男は振り返ったが蝋燭の薄暗い部屋を確認したが何者かがいた場所には何もなかった、部屋には自分だけだ、いるはずはない疲れているだけだ、男は燭台を机に置いた途端明かりが消えた。

「見つけた」
その声に驚き振り返ったが誰もいない、だが続け様に声が聞こえる。
「こっちを向け」
男は恐怖に震え怖じけついている時、突如喉元を何者かに掴まれた。
「間違えない、お前だ」
男は怯えながら尋ねた。
「あ、あんた誰だ」
何者が自分の顔を男に近づけた。
「忘れたとは言わせないぞ、お前が俺に何をしたか!」
「お、お前は」
男の断末魔は雷でかき消され雨が降る音だけが聞こえる。


                  
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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