第2話

文字数 1,081文字

一週間前だ、奴が帝国劇場で姿を現したのは。
最初はただの見間違いだと思ってたし、盗まれた物もなかったから軍に情報が流れて来なかったんだけど、二日前に見たと言った警備員っていうのが昔本物を見たことがあるって言うんだ。
しかも真正面で見たから間違えないって断言したのさ。そして今日の夜にあろうことが劇場で慈善活動のオークションが開かれるのさ、金持ちとお偉いさんだけのね。間違えなく今夜犯行が行われる筈だ。
そこでだ、頼むユベール。俺の代わりにそのオークションに行って真相を調べてくれ。
招待状はある。服装はまだ持ってるだろあれ。
そうゆう事で頼むよ願わくは黒雨を捕まえて来てくれ俺の将来がかかってるんだ。



夜も更けて街灯が輝かに光りだし、劇場前には人集りができていた。

ぼさぼさの髪と髭を整えた。

二度と袖を通す事はないと思っていた。

さっさと燃やしてしまえばよかったと後悔している。

マレーの野郎、後でとことん絞れるだけ絞ってやる。この借りは高いぞ。

胸に着けた中佐の階級バッチ。

軍服を纏い劇場に向かう。

こんな依頼、受けるべきではない。軍にいた過去は忘れたい。

だが真相を確かめなくては。

怪盗黒雨はもうこの国にはいない。俺が逃した。

見間違いか、なりすましか、どっちにしろこの件はうちの家族が深く関わっている筈だ。

初代黒雨はロッシュ家のお抱え絵師のだっだ。

絵の中には国の裏金、横領、賄賂諸々の金の在処の暗号が描かせた。

その絵は名の知れぬ人物が描いたとして美術館や博物館、個人所有などで分散、痕跡を分からなくさせ一部の人物だけが分かる様になった仕掛けになっている。

初代はその絵の暗号を解き私欲ではなく世のため人のため、要は義賊として行動した。

あの爺さんと親父さんとはよくしてもらった。

化物達(家族)に殺されかけた時に助けてもらったり、絵の書き方を教わったりした。本当に優しい人だった。

金が無くなったと俺の家族が気づいた頃にはそれはもう酷い慌てっぷりだった。

そう、気づいてしまった。そして消された。親族共々。

唯一生き残ったのは孫娘だった。

レイニー、二代目黒雨だ。

彼女は祖父の意志を引き継ぎ黒雨として動き出したはいいが少々抜けてる所があった。

暇な時に様子を見に行った時もかなり危ない橋を渡っていた。

俺は関係ないとはいえ親族を殺され身分を変えて生きてきたと思うと多少胸が痛む。

今俺ができる事といえば彼女を国外へ逃がす事。もうそれしかなかった。外に逃げてしまえば奴らは手を出してこない。

今頃は新たな土地て平穏に暮らしている事だろう。多分、そう願いたい。

回想も済んだ事だしさっさとこの件を解決して家に帰りたい。
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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