第2話

文字数 1,182文字

探偵は事務所の中に入るように促し、男は少女に車で待つように伝えた。

男は事務所に入るなり自分の家に居るかの様にソファーでくつろいた。
「ここは相変わらず変わっていない様ですね。ちゃんと働いているのですか叔父さん」

「うるさい、お前に心配される辻合は無い。それに叔父さんは止めろ、お前とは血が繋がってないんだから」

探偵はキッチンから二人分のカップとスプーンを持ってきて男の前に置いた。
「そんな事言わないで下さいよ、一緒に暮らした中じゃないですか」

男はカップを手に取り鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
「珈琲ですか」
「苦かったらそこにある砂糖を使え」
「いえ、結構いただきます」
男はカップに口を触れた。
探偵は角砂糖を四つ投入し、息を何度も吹きかけた。
「ふっ…叔父さんの猫舌もこの事務所も全く変わらずですね」男は鼻で笑った。

「黙れ…ふう…飲めりゃあいいんだよ…ふう…文句があるなら…ふう…飲むんじゃねえ」
探偵はカップを口をつけたが、直ぐに諦め口を離しテーブルに置き質問した。

「で、今日は何の用で来た。また変な事件に巻き込まれてるのか?」

ふっと男が笑った。
「私を誰だと?事は全て順調に進んでいます。誰も私を止める事はできませんよ」
「ああそうかい、この前新聞に西部の大規模な土地を買収されたってあったがお前の事だろ。あそこには何もないぞ、あるのは貧困と争いだけだ」
「ええ、ですから買ったのですよ。あそこには価値がある」
「お前の事だ奉仕活動ではないだろ、いや何も言うな、俺を巻き込むな」
探偵は身構えた。

「そんなに身構えないで下さい。別に取って食ったりしませんから」男は笑顔で答えたが目が笑っていない。
「だいだい何だ、急に来るとか、ここに来なくても良かったんじゃないのか?」
探偵はもう一度カップに手を取った。

「申し訳ございません、最近うるさい蝿どもがうろついていて撒くのにこの事務所が適していまして」
冷めきった珈琲を一口飲み込んだあと探偵はため息を吐いた。
「またお前、危ない事に手を出したな。どうなっても知らないからな」
「ご心配なく、我が商会はそんなヤワではありません。それより今日来たのは叔父さんにご相談が…」
男が話しを持ち出した瞬間、探偵は持ってたカップを素早く置き両手で耳を塞いだ。
「止めろ聞きたくない」
「とても素晴らしいお話なのですが…」
「あーーー何も聞こえない、俺は何も聞いてない」
男はいきなり探偵の手首を掴み耳から引き離し顔を近づけた。その際に男が手首に繋がれていたアタッシュケースがテーブルを暴れまわりカップを倒し、珈琲が散乱した。
「馬鹿、何すんだ!」
探偵は慌てた。

男はとてつもない殺気を放した目で不適な笑みを浮かべ答えた。
「今日来たのは叔父さん、あなたを手入れれる為に来たのです」

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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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