第6話

文字数 995文字

「どうも、遊びに来たよ」
マレーが紙袋を抱えて事務所に入ってきた。

「さっさとその土産を置いて帰れ」

「そんな冷たい事言うなよ友達だろって何で土産だって分かったの?」

「疲れてるんだ帰れ」

「そう言うなよほら見てよ舶来の菓子だよ、カステラ?だっけ?旨いぜこれ、来るときに一口食ったんだよ。チャシャちゃんにもって、あれチャシャちゃんは?」

「風邪引いて寝込んでる」

結局、五体満足で帰れた。運が味方をした。

いつ死んでもおかしくない状況下であれほど事が上手くいくとは正直面食らった。

あの女がみすみす逃すとは思えない、絶対に何かある。

それにしてもあの場を切り抜ける為に助手には酷な事をしてしまった。そこの点には反省している。

だが遠かれ早かれ助手はああなる運命だった。

「珍しいね寝込むなんて。大丈夫なの?」

「ご心配なくー大丈夫ですー」

助手の部屋から弱々しい返事があった。

助手にはあの場で起きた事は話していない。余りにも緊張で意識が飛んで倒れたと誤魔化しておいた。

「チャシャちゃんお大事にねー」

「もういいだろ、帰ってくれ」

帰って来てから殆ど寝ていない、気が張ってそれどころじゃない。

マレーがいきなり頭を下げ手を合わせた。

「頼む!一生のお願いだ!仕事を手伝ってくれ!」

大きなため息が出る。

「お前なー」

「頼むよーお偉いさんの娘さんが悪い男に捕まったらしくてさー」

「どうしてお前の一生のお願いが今まで三十八回もあるんだよ」

正直、今マレーと付き合っている暇はない。

「帰れ帰れ帰れ」

マレーを玄関まで押し出す。

「頼むよ俺達友達だろ。そこを何とか…」

「無理だ帰れ」

「じゃあ今日の所は帰るよ、でもせめてあの菓子を一つだけ俺に」

「ダメです!全部私が食べます!」

助手がそこは力強く答えた。

「帰れ帰れ出てけー」

蹴り出して追い出す事ができた。

マレーを追い出して少し安堵感を感じた。

今までの日常が帰ってきた、そう思った。

そう思った束の間だった。

脳裏に映る導き出された未来。

ああ…そうか…

「先生、先生、お腹空きました早く持ってきて下さい」

助手がせがむ。

受け入れるしかない、最初っから分かっていた事だ。

「分かった今行く」

「先生お茶もお願いします」

「今のお前には薬草酒で十分だ」

紙袋を持ち助手が待つ部屋に向かった。



                  第15章
                  血族会議
                     終
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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