第1話
文字数 1,588文字
先日そちらに送った手土産で大変不愉快な思いをさせてしまい大変に申し訳ございません。
私の勝手ながら叔父さんに喜んで頂けると思い送らせていただいたのですが、後日私の秘書からお叱りの電話があったと聞かされ大変に心苦しく思っております。
どうしたら叔父さんに喜んで頂けるかと商会一同で集まり案を出しあい、結果叔父さんと助手さんお二人に二泊三日のご旅行をプレゼントを差し上げたく思い招待状を添えさせていただきました。
場所は帝都から南部にある田舎町で小麦畑が広がり山々に囲まれた田園風景が美しいのどかな場所です。
当商会は今腕を上げて観光業に力を入れて観光地にしている最中で、その中でもまだ帝都でもあまり知られていない指折りの場所です。
叔父さんだけでなく助手さんにも喜んでいただけると自負します。
明後日迎えの車を向かわせます。どうかよいご旅行をお楽しみ下さい。
親愛なる甥っ子より
P.S 今度は何もないので安心して下さい
「誰が行くかこんなもん!」
探偵は手紙と招待状を真っ二つに破り捨てようとしたが、背後から助手に奪い取られた。
「いいじゃないですか、旅行ですよ。金持ちしかできない旅行を出来るんですよ。喜びましょうよ」助手は笑顔で喜んでいる。
「いや、絶対に行ってはいけない。下手したら命に関わる」身震いが止まらない。
「先生、私先生の甥っ子さんの事をあまり知らないのですがどんな方何ですか?」
そういう事になってたか
「あいつはお前がうちに来る前に五年ぐらいこの事務所に住まわせていた。あと甥って言っているが義理だ。血は繋がってないし奴に関わるとろくな事が起きない。だからこの旅行はやめとけ。今電話で断ると伝える」
探偵は電話の受話器を取ったがすかさず助手が止めた。
「駄目ですよ、ここは可愛い甥っ子さんに甘えましょうよ。旅行ですよ旅行!美味しいものをいっぱい食べるぞー」助手は完全に浮かれている。
探偵はもう一度手紙を見返した。
俺の勘がささやいている。絶対に罠だ…
「いいか!何があっても俺は絶対に行かないからな!」
三日後
事務所前で待っていたら黒塗りの車が曲がり角をドリフトしながら爆走し探偵たちの目の前で急停止した。
運転席から前にもあったパンチング帽をかぶった少女が降りてきててきぱきと助手の大量の荷物を積み込んでいった。
「先生は荷物は持っていかないのですか?」
「手ぶらでいいんだよ、邪魔になる」
「それにしてもいつものコートを着ていくんですか?」
「いつものままでいいんだよ」
探偵たちを乗せた途端、猛スピードで走り出した。凄い揺れと圧迫感が全身を襲った。
(なんて運転しやがるこの嬢ちゃんは!)
あっという間に帝都の外を抜け荒れ果てた荒野の道を駆け抜けていた。
だいぶ揺れが収まり探偵は隣に座っていた助手を見ると意識を失って白目をむき、揺れる車体と一緒に頭が揺れていた。
一度も停車せず五時間ほどたった、車は急停止した。
「お待たせしました」少女は笑顔で探偵たちを降ろした。
見渡す限りの小麦畑が夕方で美しく照らされ、清らかな小川に山々に囲まれている。所々に石作の家が点々とあるまさに田舎だ。
だが目の前の建物は他の家々とは違い、木造造りで他の家とは一段と大きく格式がありつつ周りの風景と馴染ん佇まいだった。
運転手の少女は助手の荷物を手早く建物内に運び出した。探偵は意識がもうろうとした助手を脇に抱えた。
「私はこれで失礼します後は中の者がご案内致しますそれでは」少女は笑顔で早口で言った後素早く車に乗り込みこれまた猛スピードで地平線へと消えて行った。
車が消えた後は風が爽やかに吹き小麦の擦れる音が心地よかった。
何で来てしまったんだ…