第1話

文字数 697文字

もう五日も降っている。
鬱陶しい湿気と雨が帝都を包んでいる。
それは探偵事務所も例外ではなく、息苦しい湿気が事務所内にいる二人を襲った。
二人は成すべく無くソファーに倒れ込み気力を失い静寂に包まれていた。

「助手…生きてるか…」
ソファーに顔を埋めながら助手に尋ねた

「………」

「助手よ…返事をしろ…」

「………」

返事がない
「逝ったか…」

「生きてます…」
弱々しく答えた
「勝手に殺さないで下さい…」

探偵と助手はピクリとも動かない
部屋はまた静寂に包まれた

しばらくしてから探偵は静寂を破った
「腹…減った…」
その言葉に助手も釣られて答えた
「私もです」

「何かないのか」

「何もないです」

「何かあるだろ、菓子とか缶詰とか」

「本当に何もないです。先生があんなのを買うから」

助手は事務所の入り口を指差した
そこには真新しい自転車が置かれていた
「私の給料使いやがって…このクズ」

「別にいいだろ…お前だって…」
探偵はテーブルを指差した
チラシの山が五つ積まれていた
「何なんだよこれ…」

「印刷所に頼んで事務所の宣伝用に作りました。ここ最近、依頼来ないじゃないですか。このままでは本当に飢え死にします」

「だからって作り過ぎだ、貴様こそ俺を飢え死にさせる気か。こんなん作る金があったら俺に渡せよ」

「この前、それで全部博打ですったじゃないですか。覚えてないとは言わせないですよ」

「うるせえ、あの馬さえ転けなきゃ大金が手に入ったんだ」

最初は勢いがあったが段々と弱々しくなり会話が終わり探偵と助手は沈黙した。
今まで雨音だけが聞こえるだけであったが腹の音が二人を苦しめた。

駄目だ、このままでは
探偵は遂に重い腰を上げた


                
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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