第4話

文字数 1,126文字

マスターの奥さんは事故で死んだテロだった

帝都ではまず起こり得ないと言われていたが国中がざわめいた。

─止められるはずだった

魔石を用いた自爆爆破テロだった。
その時、娘も一緒だったが母親が庇ったお陰で無事だった。

「だからよう…俺は…俺は…」
鼻水も垂れてきていた

「……ぁああ」
店の奥に座って居眠りをしていた老人が起きた。
「なあ…トーストまだか?」
寝ぼけた声で言った。

「何ボケててるんだよ、さっき食ったばっかりだろ」
涙と鼻水を拭いながら答えた

「それでよ」
探偵は尋ねた。
「今回の報酬なんだか…」

「ああ、先々月のツケはチャラにしてやるよ」

「はっ?一ヶ月だけか、二ヶ月分の価値はあったろ」

「こっちだって商売なんだから食っていくのに必死なんだから」

「ふざけるな、帰る」

「まーまー落ち着け」
マスターはカップを探偵の前に出した。
カップの中には黒い液体が入っている。

「なんだこりゃ」

「まー飲んでみろ、ちょうど冷めた頃合いだ」

探偵は恐る恐る手に取り、口に近づけた。
香りは…香ばしい匂いがする…味は?液体を口に入れた瞬間吹きこぼした。

「なんじゃこれ!不味すぎる」
探偵はまさに苦虫を噛んだ顔をした。
「まるで炭でも(かじ)った様な味だ。」

「そうか?俺は結構気に入ってる」
そう言って自分のカップに注いだ黒い液体を飲み込んだ。
「珈琲《コーヒー》って言うんだ、外国の家庭や喫茶店では当たり前に飲まれているそうだ。今度市場に出回るから店で売る、きっと売れるぞ」

「誰かこんなクソ不味い奴を金を払って飲むか!もう帰る!」

探偵はむくれて席を立ち店を出ようとした。

「あ、おい待て」
探偵を呼び止めた。

「なんだよ!」探偵は不機嫌だ

「お前に依頼したのは一週間前だったな?」

「それが?」

「昨日は何をしてた?」

「あのなぁ」

「分かってる、分かってるげどさ」

探偵は店の扉に手を掛けた

「覚えとけ、世の中知らない方がいい事だってあるんだぜ」
呼び止める声を無視して店を飛び出した。



店を出てしばらく歩くと一人の少女とすれ違がった。
綺麗にラッピングされた箱を抱え、探偵が来た道に進む。
少女の顔は笑みがこぼれ、足並みは軽やかであった。
彼女は幸せなのだろう、日頃の感謝の気持ちを込めたプレゼントを持って親に会いに行くのだから。

探偵は少女の後ろ姿を見送った。

そして思い出した。

帰ったらボコられる
重い足取りて探偵は事務所に帰った



               第2章
            親馬鹿と珈琲 
                 完
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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