第2話

文字数 695文字

「ただいま帰りました!」
大声と扉を勢いよく開いた音で寝ていた探偵は言葉にならない声をあげ跳ね起きた。
「…ふぅえ…なに?」
寝ぼけてまだ頭が回らない、助手が足早に自分の部屋に入っていく姿が見えた。そして嵐が過ぎ去ったかの様に部屋は静まり返り探偵は再び目を閉じた。
助手は机に本を置き椅子に座り目を閉じ深呼吸をした。
「…よしっ」
目を見開き置かれた本をまじまじと見つめた。
「遂に待ってた『箱庭探偵サリア・イングラムの事件簿』の新刊!」
助手は両手で本を手に取り抱き締めた。
「この時を、この時をどれだけ待ち望んでいたか…しかも著者のジョセフ・マティスのサイン入り!そして…少し話せた~」
本の表紙を見ただけで買った時の記録が脳裏に甦った。
「嗚呼、どうしよう。また胸が張り裂けそう。夢じゃないよね、私変じゃなかったよね、ちゃんと話せたよね、どうしよう話した内容が全然思い出せない」
再度、机に本を置いた。
「初めて会ったけど想像してた人と全然違ったけど想像の二割増しカッコよかった。はぁー思い返すだけでも胸がまた…深呼吸だ、深呼吸」
自分の胸をなだめた。
「ヨシッ、では早速読まさせていただきます!ご開帳…痛っ」
表紙に手をかけた瞬間、頭に何かがぶつかった。床にはくしゃくしゃに丸めた紙くずが転がっていた。
「さっきから一人でうるせぇよ馬鹿野郎」
探偵が部屋の扉の前に立っていた。
「俺、これから飲みに行くから今日はもうこっちに戻らない。ちゃんと鍵閉めとけよ、じゃあな」
そう言いそのまま事務所から出て行った。
私はあんな探偵には絶対にならない、心の中で誓った。
「さて、読みますか」
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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