第4話

文字数 2,697文字

「お前に話がある」探偵は冷静を保った。

「叔父さんが私に?もしかしてスカウトの件を考えてくれたとかじゃないですよね」

「ふざけるな、お前とは縁を切りたいぐらいだ」

「冗談ですよ、さて叔父さん。今日はどのような件ですか?」

「用件は分かっているはずだ。何が何にもなくて安心しろだ。お前があの村で俺に何をさせたか」


二日目
散策も飽きたので宿に帰る途中、一軒の家の横を通った。
家の横で薪割りをする幼い少年がいた。何度も斧を降っているが薪が全く割れていない様だ。
(丁度いい、あいつにするか)
「下手くそ、見ててイライラする」
少年は振り返り探偵を睨んだ。
「おっさんできるのかよ」
「おっさんって呼ぶな、ほら貸してみろ」
探偵は男の子に近づき斧を受け取り切り株の上に置かれた薪の前に立った。
「都会もんにはできねえよ」
「その目で見てろ」探偵は両手で斧を振りかぶった。
見事に薪は一刀両断に割れた。

「おっさんすげー」男の子は興奮した。
「こんなもんじゃねぇぞ」
探偵は次々と薪を片手で割り続けた。
「おっさん教えてくれ、どうやったらあんなに割れるんだ?」
「おっさんはやめろ、俺は四十…あっおっさんか…」自分の発言で少しへこんだ。
「なあおっさん教えてくれよ、いいだろ」
少年は探偵にしがみついてきた。
「分かったから離れろ危ねぇだろ」

それからこの少年から色々と聞き出した。
先ずは好きなもの、今流行っている遊び、将来の夢、家族構成、どうやら昨日の宿に来ていた二人はこの少年の家族だそうだ。

後は肝心な質問

「この村には何か風習とかあるのか、例えば神様に

するとか」
今まで元気に話していた少年は黙ってうつむいた。
「毎年山神様にお供えするんだ。そうすれば誰も死なずにすむ、大人達が言ってた」
少年の声は段々と小さくなっていった。
「そうかもう何も言うな」
探偵は少年の頭を触った。
(一宿一飯の恩って訳じゃないが…)

深夜
月が雲に覆われる暗闇で村人達は松明を持って山に入って行った。
森を抜けて更に進んで行くと山の岩肌に大きな横穴が空いていた。
村人達は立ち止まり村人の間から白服姿の少女が横穴に進んで行った。
「山神様、今年の

です。どうかお納め下さい」
村人達は膝を着き頭を下げた。

山神どうかお納め下さい

我々をお助け下さい

静まり下さい山神様

村人達はそれぞれ違う願いを言った。
少女は横穴の目の前で止まった。手足が震え足元を向いていた。
「山神様、私がお供え物です。どうかお納め下さい。そして今年も静まり下さい」
意を決して穴に入ろうとした時、横穴から何かが流れてきた。
血だ。しかも段々と大量に流れてきた。
少女は横穴を覗いた、暗闇で何も見えない。いや何か見える。
覆っていた雲が消えて月の明かりが横穴を照らした。
白く巨大な鱗に覆われて巨木のごとき大きさの胴体、血の様に真っ赤な三つ目の瞳がゆっくりと近づいて来た。
「えっ」少女は驚き後ずさりした。
巨大な三つ目の蛇の頭が少女の足元に転がった。
頭と胴体が真っ二つに切られていた。大量の血が横穴から溢れてきた。
「まさか…そんな…」村人達が騒ぎ出した。
「一体誰が」
「あんな

をどうやって…」



「いつ気づいたのですか」

「村人の年齢層がかなり差があった。幼い子供と年寄りばかり、村の規模を考えて若者の人数が明らかに少ない。村を歩いていると祠が何ヵ所かあった、何か信仰をしているか静めるためのものと考えた。そしてあの

だ」

「像?」

「土産物店で売っていた蛇の像、三つ目の蛇、昔聞いた伝承で三つ目の蛇、破壊神と恐れられ人を食らい恐れられた、そんな昔話。事実は小説より奇なりとはこの事だ」


帰り際、探偵は老婆と少女に呼び止められた。
「ヴィンセント様が仰っておりました。この村を救って下さると。こんな日が来るとは本当にありがたやありがたや」
老婆は深々と頭を下げた。
「あの」少女が声をかけた。
「あの子にこれを渡してくれませんか」
探偵に紙切れを手渡した。
「本人に直接渡せばいいだろう」
「昨日あの子に悪いこと言っちゃって気まずくて」
「あいつは図太いから全く気にしねぇよ。まあどうしてもと言うなら渡してやるよ」

「先生、もう出発するそうです」
探偵は振り返った。
「分かった、今行く」


「流石は叔父さん、私の予測を遥かに超える結果ですよ。私が直接対処しようと思っていましたがスケジュールが空いてなくて、まさか倒していただけるとは本当に素晴らしいです」

「お前、わざわざ俺にあの蛇を始末する為に今回の旅行(計画)を考えていたのか」

受話器奥から笑い声が聞こえた

「そんな事はありませんよ、私は商売の為に丁度あの村が欲しかったのですよ。ですがあの村の忌々しい風習?山神?馬鹿馬鹿しい、下等な生き物に媚びて生きていくなんて実に愚かだ、そう思いますよね叔父さん」

「あの蛇は目を見ると相手を硬直してしまう呪いの魔目を持っている神代からの生物だ。村人全員が相手でも傷をつける事すらできない。軍でも手を焼くだろう」

「そうですね、何も出来ずにただ生け贄を捧げる事しか出来ない愚かな人たちでしたよ。…ふふ…思い出しただけで笑ってしまって…」

高笑いが受話器から聞こえる

「黙れ、お前にあの村人達の気持ちが分からないのか。時に肉親を、愛する人を失う気持ちが分からないなか」

「知ってますよ目の前で大切な人が死ぬ気持ちが、だからこそおかしいのです。何故死ななくてはならない。神?信仰?この世に神などいないのに。存在しては行けない…

!」

「お前は何がしたいんだ」

「…それはまた次の機会で話しましょう。それでは



「待て…」

電話が途切れた。
事務所は静寂に包まれた。

それではよい夢を

分かっていて言ったのか、まさか…

『ユベール中佐の夢は何ですか?』

探偵は頭の中で響いた。
(またこれか…俺はもう夢を捨てた)
今夜は眠りたくない、寝たら

を見るだけだ。
探偵は珈琲を淹れて人肌に冷めるまで待った。

寝たくない…寝たくない…寝たくない…

探偵は目を瞑った
悪夢よ、どうか覚めてくれ



               第11章
             悪夢の旅行
                 完





















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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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