第2話 前編
文字数 1,683文字
事務所にいた探偵は大きなあくびをしながら自分のデスクで新聞を読んでいた。
「先生、仕事して下さい」助手は頬を膨らませた。
「うるせぇ、こんな天気でやってやれるか。こっちは眠たくてしょうがないんだ」
「そんな子供みたいなこと言わないで下さい。今珈琲を淹れますから飲んだらやりますよ、今日中に終わらせないといけない仕事がありますから」そう言って助手はキッチンに向かった。
(あいつの珈琲不味いんだよな)
探偵はデスクに顔を埋めて今すぐにも眠りに落ちる時だった。外から音が聞こえる。
(エンジン音…独特な音…軍隊仕様のトラックだ…排気音が近い…)探偵はすぐに立ち上がって裏口に向かった。
「ちょっと外の空気を吸ってくる」そう言い裏口のドアを開けて出ようとした。
「な、なんだ!?」
ドアを開けると軍服をきた屈強な体格の男が入ってきた。
「誰だてめえ!」
探偵は胴体に一発拳を食らわせ様としたが、寸前で拳を捕まれた。すごい握力だ、握り潰される。
探偵は怒鳴り声で助手が駆け寄ってきた。
「何ですか先生、これは一体…」
「チャシャ逃げろ!」
すると事務所の入り口から聞き覚えのある声が聞こえた。
「悪い悪い、どうせお前のことだ、逃げると思って裏口に部下を回しておいた」
ドアが開くと旧知の仲の人物が現れた。
「マレー、一体何なんだ」
「いやなに、お前に会いに来たんだよ」
「俺に会いに来るのにわざわざ部下を裏口に回しておくかよ」
「そうでもしなくちゃお前逃げるだろう。現に逃げたし。ああ、もう放していいぞ」軍服の男は探偵の拳を放した。
「あのマレーさん?」助手は戸惑っていた。
「やあチャシャ君驚かせてごめんね。あ、ちゃんとお給金貰ってる?こいつすぐ博打に使うから、なんかあったら俺に言ってね」
「あ、ありがとうございます」
助手はまだ戸惑っている。
「で、お偉いさんがうちに何の用かい?」
「実はな…」
マレーは咳払いして改まって答えた。
「お前に渡したい物があってな、ちょっと手を出してくれ」
「は、何で?」
「いいから」
仕方ない、探偵は手を差し出した。
ガチャっという音と金属が手首に当たったた。
「よし、連行!」探偵の手首には手錠がかけられていた。
「はぁ!なにしやがるてめえ!」
探偵は殴りかかろうとしたが背後にいたマレーの部下に呆気なく取り押さえられた。
「相変わらずそうゆうのに引っかかりやすいな、悪いがこうするしかないんだ。連れてけ」そう言い探偵を事務所の外へと引きずり出そうとした。
「おい、やめろ!放せ!おいチャシャ助けろ!」
「待って下さい!」
助手はドアの前に立ち塞がった。
「何かの間違えです。先生が何をしたんですか、確かに酒癖が悪いし博打に大金をつぎ込むし約束なんかすぐ破っていい所なんて数えてもろくにない人ですが逮捕されるほどのことはしないはずです。だから…」
「チャシャ…お前…」庇ってるつもりなのか
「だから先生をどうか」助手はマレーに
「そうだチャシャ君、君にも渡す物があるんだ」
「私に…」助手は身構えた。
「はいこれ」マレーは茶色い紙袋を手渡した。
「こ、これは…」助手は直ぐに分かった。
「五番街の魚眼亭の一日限定十個のプディングパン、お口に合えばいいのだけど」
「どうぞご自由に」助手は笑顔で素早く道を開けた。
「いやーありがとう、もしかしたらニ~三日借りるかもしれないけどいいかな」
「いえいえお構えなく、どうせ暇ですから」
手を振りながら見送った。
「おいチャシャてめえ裏切りやがって!食べ物ごときで俺を売るんじゃねぇ!おい、聞いてるのか!もう食ってるんじゃねぇよ!」
探偵は暴れるもののがっちりと取り押さえられながらそのまま事務所の外へと連れ出され、外に止めていたトラックの後部座席に押し込まれた。その後、探偵の叫び声と怒号は車のエンジン音でかき消されトラックは走り出した。