第2話

文字数 1,249文字

僕が彼女に出会ったのは故郷を離れる1年前でした。
彼女は森と霧に囲まれた家に祖父と二人で暮らしており、外に出ることはあまりありませんでした。
普段、彼女は窓辺の椅子に座って外を眺めていました。
僕が初めて彼女に会った時も窓越しでした。
初めは挨拶から

こんにちは

ごきげんよう

今日は涼しいですね

今日、道端に綺麗なサクラソウが咲いていて…

来週、旅芸人の一団が来るそうです。一緒に…

窓を隔てながら話しをしていくうちに互いに心が通うようになり、彼女の事を片時も忘れませんでした。
そして僕は勇気をふり絞って彼女に結婚を申し込みました。

「素敵」助手が言った
「続けて」探偵は面倒くさそうに話しを戻した

彼女は快諾してくれました。とても嬉かっです。
しかし、仕事の関係で故郷を離れなければなりませんでした。
必ず迎えに行く、手紙を送ると彼女に約束をし、故郷を離れました。
半年も経ち彼女から音沙汰がなく、それどころか彼女に宛てた手紙が戻ってくる始末。
何か遇ったに違いないと故郷に戻り彼女の家に向かいました。
しかし…

青年は言葉に詰まった。
「それで?」探偵は尋ねた。
「それで何があった?」

「会えなかったんです」
青年は細い声で発した
「会えなかった…いや、違う。会えなかったのではなくたどり着けなかった」
探偵と助手は呆然とした。
「彼女の家の場所は確かに覚えている、間違いない。ただ、どうしてもたどり着けない」
青年は深々と頭を下げた。
「お願いします、彼女を見つけ出して下さい、もう一度会いたい」

探偵と助手は顔を近づけ耳元で囁く様に話した。
ー先生この人
ーああ、慣れない仕事や都会で心が病んだのだろう、よくあるやつだ
ーどうします?
ーとりあえずお茶飲ませたら帰らせろ、こいつは専門外だ

「あ、そういえば」
青年は何かを思い出す様に頭を上げた。
探偵と助手は瞬時に顔を離し元の位置に戻した。
青年は懐から一枚の手紙を取り出した。
「1ヶ月前、彼女の祖父が送ってきたものです」
内容は

   彼女にはもう会わないで欲しい
   もう忘れて欲しい
   別の幸せを見つけて欲しい

という内容で最後に祖父と思われる名前が書かれていた。
「どうか、お願いします」
青年はもう一度頭を下げた。
「申し訳ございませんが私たち別の案件が立て込んでいて…」
助手が申し訳なさそうに言った。
「おい坊主、こっちを見ろ」
青年が探偵の顔を見た。
「俺の目を見て答えろ、嘘偽りもなく答えろ」
探偵の顔は真剣だった。
「お前彼女の事どう思っている、真剣に彼女の事を愛しているのか」
青年は探偵の目を見て話した。
「はい、僕は彼女の事を心の底から愛しています。彼女に無事に会えたら一生添い遂げる覚悟です」

探偵は青年の目を見た、そして確信した。

「…いいだろう、分かった」
探偵は続けて言った。
「会わせてやろう、ただし条件がある」

                



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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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