第33話 陰謀渦巻く渦丁目のぐるぐる公園 会長、今日も怪鳥ですか!?

文字数 3,955文字

「キャアアアアー……ァァァァアアアアアアアア…………アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア--------------------ッッッ、……ッッッ」
 ウーとありすの叫び声が何時までも時夫の耳に届いている-----と思いきや、三人の体は地面に叩きつけられていた。塵旋風(つむじ風)が、三人の前を通り過ぎていく。
「あーいてて。ここ、何処よ?」
 ありすがおしりを摩りながら辺りを見渡すと、直径二十メートル四方に満たない小さな公園の中らしい。
 その正方形の空間の一角に、赤いタコ型滑り台、通称タコスライダーが独特の存在感を放っていた。
 わずかながら、そのモルタル製のタコの腕の渦巻きの中が輝いている。そして頂点に六角形に蜂の頭のマークがきらめいていた。
「この滑り台の渦から出てきたのか」
 ありすは住宅街にあるこの公園の番地を確認して頷いた。
「渦丁目のぐるぐる公園。良かった。どうやら恋文町の中ね。幸い、ここが出口だったみたい」
 正式名称はぐるぐる公園ではないだろうし、子供たちはタコチュー公園と呼んでるかもしれないが、タコの滑り台だけではなく、遊具のほとんどは回転遊具だ。
 その他にはジャングルジム、シーソー、ブランコ、藤棚のあるベンチ、掃除道具の入ったロッカー、水のみ場、外灯、そして入り口付近にトーテムポールが立っている。ついでにイトウの死骸も公園の砂場に打ち上げられていた。
 バチッと音がして、時夫とウーはギョッとする。枯れた藤のツタから、時々バチッと大きな音がした。町内に人は見かけず、公園内にも人はいない。静かな環境の中、バチッという音だけが響いている。
「藤棚だよ。種が弾けるんだ。……この公園、まだあったんだ。懐かしいな。子供時代遊んだよ。そん時以来」
「上見ろよ。空が渦巻いてる。さっきと逆向きだ」
 時夫が空を指した。
「レオ・ナルホド・ダ・ビンチ。分かった。向こうがブラックホールで、こっちがホワイトホールだ」
 ありすが飛んでもないことを言い始めた。
「え? 町内にブラックホールが」
 NASAもびっくり仰天の事実。
「そりゃ一体どういう-----」
「ブラックホールに関しては……ブルーバックスでも読んでりゃその内分かるわよ」
 いや、分からないだろ。
 一ついえるのは、人がブラックホールに落ちるとその断末魔は、永遠に響き続けると言うが、そうはならなかった。
「これが白彩の工場と繋がってる第二動力なのかもしれない。だから第一動力のスパリゾート『恋文はわい』を止めても、白彩の煙突に変化がなかったんだ」
「これが動力? ってどういうことだ」
「そう、あのタコ滑り台。きっと『縮退炉』よ」
 それは、SFの中でのみその名を知られているブラックホール・エンジンではないか。
「なんなんだよこいつの正体は?」
「オーパーツよ。たまたまこの公園にあったのよ」
「何故そんなもんが恋文町にあるんだ」
「さぁ。超古代文明のロストテクノロジーじゃないかしら。役所がこんなもん作れるわけないし」
 ありすの説明はずいぶん適当だ。古代遺跡をそのまま、町中の公園に使用する訳がない。というか、一説には日本の左官職人がデンマークにも作ったといわれる日本独自のタコ滑り台とか言いようがない。
 きっと「幻のイトウ」ほどにも確信的知識がないのだ。だからって、適当な作り話をするのはイカがなものか。
「一ついえるのは、職人が勘だけで作るタコ滑り台は二つと同じものが存在しない。つまり、その中には存在自体が地球上でオンリーワンのものが混ざっていてもおかしくはないってこと」
「しかし、他の遊具もみんなぐるぐる回る系だな」
 時夫が指摘するまでもなく、ありすはじっと各回転遊具を睨んでいた。きっとこれらを回転させることで、別の現象を引きこす仕掛けとなっているのかもしれない。
「ウー、くれぐれも勝手に触らないでね。何一つよ。お願いね」
 ありすは最後にトーテムポールに目を留めた。
「みんな、これまでのこと思い出して。恋文はわいには床ジョーズが、森には鰐とイトウが居たわよね」
「うん」
「あいつらはゲートルームを守っていた。つまり、ゲートルームには必ず番人が居るってこと」
「じゃあ、この狭い公園の中にも?」
 皆が敷地内の様子を伺っていると、腕を組んだウーが寄りかかっていた遊具が、ウーのおしりに押されてぐるりと回転し、ウーは「キャア」と叫んで転んだ。
「あっ、もぅ触んないでって言ってんじゃん」
「イテテテ……ゴメン」
 おしりをさすりながらウーは立ち上がる。
「うぎゃああああ-------! 血が出たぁ-------!!」
 ウーが騒いでいる。
「大げさね」
 ありすが見ると、ウーはひざ小僧を擦りむいたらしい。
「ここの場合は……あいつ、何かやばい!」
 ありすが警戒すると同じに、トーテムポールのそれぞれの怪物の眼が怪しく光り始めた。ウーが押した遊具が原因かどうかは分からない。
「ネイティブ・アメリカンの村に必ず存在したトーテムポール。それはゲートキーパーの意味がある。だけどなぜか日本に輸入され、町中のあちこちの公園に立ち並んでいる。『ゲートキーパー』。そのせいで意味論が生じる。危ない、避けて!」
 ありすが叫ぶと同時に、各怪物の眼から稲光が迸り出ていった。
 今やこの公園で転げまわっているのは遊具群ではなく、ありすとウーと時夫たちだった。その内、科術使いの二人は転げ回りながら、「無限たこやき」と「うさぎビーム」を撃ち放った。
 この狭い公園内で、壮絶な撃ち合いが始まった。まさに、渦丁目のぐるぐる公園の決闘だ。
「くそっ縮退炉を守ってるだけのことはあるか……なかなか手ごわいわねッ」
 トーテムポールの各怪物の眼から発せられた稲妻は、闇雲に三人を襲撃している訳ではないことに、ありすは気づき始めていた。
 外れた稲妻が空へと撃ち上がる確率が高かったのである。それは二つ、あるいは三つの稲妻が宙で交差するたび、次第に「形」を形成しつつあった。
「やはり。トーテムポールだけでは終わらないってか!」
 回転遊具の物陰に隠れつつ、西部劇のガンマンのように反撃するありすは宙を睨んでいる。それは稲光を集積した鳥の形を取りつつあった。
「分かった。トーテムポールの頂点は鳥の形をしている。あいつはネイティブ・アメリカンの伝承に登場するサンダーバードだ」
 真のゲートキーパーが出現する瞬間だった。
 そいつは青空の中に出現した、稲光の神鳥サンダーバードである。森の中でウーが「怪鳥」とか、余計なことを口走ったせいかもしれない。
「女王が町に張り巡らした電気が、化け物を形成したのかもな」
「ありうる」

 ンガァアアアアアッッーオォォンン……

 間近の稲妻の爆音と共に、怪鳥の雄たけびが響き渡った。同時に、雨霰と稲妻が狭い公園に落ちてきた。
「うっきゃー何この天気!」
 ウーがめちゃくちゃに地面を転げまわっている。ありすと時夫も似たようなものだ。三人は、縮退炉であるたこ型滑り台の渦の中に避難した。
 稲妻は出入り口に集中し、公園を出ようにも出られない。広げた翼は十メートルに達するサンダーバードは、稲妻を落として獲物を狩るのだ。手始めに巨大なイトウを銜えると、丸呑みした。
「なんて……バケモンだッ」
 時夫は呆然とその光景を見守る。
「会長、快調ですか!? 怪鳥で~~~すッ!!」
 ウーが稲妻攻撃にたまらず渦の空洞の中から転げ出ると、稲妻の化身たるサンダーバードの鍵爪が胴体を掴んだ。
「イヤァアアアアーー……!」
 ウーの黄色いキョウ声が宙高く舞い上がった。竜巻でモノが巻き上がるファフロッキー現象だ。いずれどっかの番地にバニーガールが降ってくる。そして、そこは「うさ丁目」と呼ばれるようになるだろう。
「金時君、早くウーの足掴まえて!」
 近くに居た時夫にありすは指示を出した。その時夫の胴体も浮き上がり、血相を変えたありすが腰に抱きつく。幾ら必死とはいえ、こ、この状況は。
「早く引っ張ってェー」
 ウーが上で悲鳴を上げている。ありすは左手で時夫を捕まえ、右手で無限たこ焼きを放つという離れ業を行い、遂にトーテムポールの頂点の怪物を破壊した。
 すると瞬時にサンダーバードは空高く飛び去り、三人とも地面に落ちてきた。そんなに高い位置ではなかったのが幸いである。
「おととい来やがれ!」
 などとウーが悪態をついていると、次の瞬間トーテムポールにさらなる異変が始まった。
「おい兄弟! ヴォルテックスイベントが始まるぜ!」
「おう!」
「ボイントンキャニオン!」
「エアポートメサ!」
「カセドラルロック!」
「ベルロック!」
 頂点を破壊されたトーテムポールの他の怪物たちが口々にしゃべり出したのである。
「うるさいなコイツら」
 ウーが叫びながら後ろのタコ型滑り台をチラ見すると、さっきまで自分たちが潜んだ渦が輝きながら回転を始めていた。
「聞いたことあるわ! アメリカのシャスタ山のあるセドナには、ヴォルテックスっていうスポットがあって、そこから回転する大地のエネルギーが沸いてるんだって」
 ありすが説明を始める間も、赤黒い輝きが増していった。
「うわーっ、これってブラックホール? ホワイトホール?」
 慌てたウーは、他の回転遊具を全てタコ型滑り台の渦巻きと逆回転にまわし始めた。
「バカーッ」
 タコ型滑り台の渦巻きは逆回転を始めた。縮退炉は、今度はブラックホールとして作動していたらしかった。
「みんなもし無事だったら、恋文銀座に集合ォ!」
 ありすの叫び声と共に、三人はタコ型滑り台の渦に吸い込まれていった。渦に巻き込まれながら時夫は思う。いつもいつも石川ウーに振り回されている。底なし沼で時空を歪めた真っ黒な台詞といい、ウーは本当に味方なんだろうか。
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