第52話 冬将軍対鍋奉行 黒アリさんたら黒星食べた
文字数 5,483文字
雪原は、ありす戦車を追撃するJ隊の白い戦闘服で埋め尽くされた。立て直されたJ隊の大部隊の通常兵器による攻撃も、だいぶ効を奏してきた。
いちいち熱い小林カツヲの洋楽着き「ベストヒットUSO」と、雪絵たちの「ハーグ・ワン」のホットさで、氷に閉ざされた世界が溶け出している。
ダークスター軍および氷結城は、ありすの戦車の科術と雪絵たちが倒したものの、まだダークスターが不気味に浮かんでおり、氷結光線を充填している。光線が発射されれば、一瞬で氷結世界は元通りだ。
「クソッ、決め手に欠けるわね……」
『ありすさんありすさん、こちらハーグワン……』
その時、凍りついた電波がこれまでのベストヒットUSOでようやく解け始めて、通じるようになった。「ハーグワン」という名称に、ありすは心穏やかでない顔をした。
『雪絵です。時夫さんも一緒です』
……ハグだって? やっぱし。あの二人。
『無事なのね?』
『はい。上空のダークスターは、ダークトゥルーパーの巣穴です。地上のダークトゥルーパーとつながっています』
なるほど。だから地上軍が打倒された今、ダークスターはすぐに反撃できずに居たのだった。雪絵によると、ダークスター=ダークトゥルーパー、ダークトゥルーパー=ダークスターという関連性が感じられるらしい。
『とすると、残りの地上のダークトゥルーパー達を一斉に打倒しないと、ダークスターは消えないわね』
ラストのすき焼き鍋で、最終的に八割方の敵を打倒した。それでもまだ二割が広大な戦場に散らばっている。
彼らを、限られた時間内に一網打尽に壊滅させることができれば、ダークスターは破壊できる。しかしそれは非常にハードルが高い作戦にも思えた。
『彼らの正体は、諏訪湖の名産……バフンウニまんじゅうに群がっていた蟻です!』
『あ、蟻んこだってェエ?』
驚くのも無理はない。バンバン人は蟻んこだった。雪原を走る戦車からは、地面に這う蟻に戻った彼らの姿は、あまりに小さすぎて見えなかったのだ。
「それはともかく、バフンウニまんじゅうって……、馬ふんなのかウニなのかまんじゅうなのか!?」
ウーが真剣に疑問に感じている。
「そのいずれでもあるんじゃない?」
ありすは苦笑する。
「よし、ここまで来りゃもう作戦変更する!」
ありすは一網打尽の必殺科術を思いついた。
「何する気?」
ウーが心配して無線で聞いてくる。
「敵の正体が見えた今、こっちもこの戦いの意味論で、最終兵器を編み出してやるわよ!!」
ありすの無線は「ベストヒットUSO」のアンプ類に連結された。まさに今、J隊は科術師・古城ありすの真の戦闘力を目の当たりにすることになるのだ……!
白アリさんたら白星食べた
みんなが小さくなるように~
黒アリさんたら黒星食べた
みんなが大きくなるように~
意味という意味が“嘘”となって相転移するCBA48度線。白蟻=J隊の大勢力はますます力を増し、一方で黒蟻ことダークトゥルーパーの残党たちは、あっという間に小さな蟻に戻っていった。
放送内容とは裏腹に。すなわち、意味が逆になる。
バンバン人の氷結兵器群は、急激な気温上昇に耐えられずにショートを起こしていた。それらをありすの科術呪文で勢いの増したJ隊の通常兵器が破壊した。
地上から彼らの姿が一斉に消えてなくなった時、天空の暗黒の星・ダークスターは壮大に爆発した。
「ふぅ~。カ・イ・カ・ン」
「……気が済んだ?」
ウーも呆れるほどの完全なる大勝利を、古城ありすが手にした瞬間だった。
冬将軍対鍋奉行
「やったぜッ!!」
敵基地の破壊を見た時夫は快哉を叫んだ。二人はまた抱き合った。
ほどなくJ隊の大部隊を率いたありすのシャーマン戦車が、二人のもとへ到着した。
「いつまで抱き合ってんの」
戦車から降りてきたありすが声を掛ける。
「あっ」
時夫と雪絵は離れた。その雪絵は、依然として手にマシンガンを持っている。
「ダークスターの弱点を教えてくれて、ありがとう」
……蟻だけに?
「時夫もよくやったわねェ。雪絵さんも無事護ったよーだし」
といいながら、なぜありすは不機嫌なんだ?
「どうせ、地下の連中がでっち上げた宇宙人なのよ」
その時、戦車がガタタタタと派手な異音を立て、小爆発を起こして沈黙した。振り向いたありすはギョッとした顔のまま固まっている。
「……あああ、あたしのシャーマン戦車が、壊れちゃったみたい。科術の使いすぎかな?」
変なものを、大砲に流し込んだからだろう。
大活躍だった戦車だが、科術をMAXで使ったせいで、遂にその役割を終えるときが来たようだ。
「また、スーパーカー消しゴムの登場かよ」
「いいえ。もう疲れたでしょ」
ありすはシャーマン戦車とコンボイの連結を外させると、店長に「乗せてってくれない」と頼んだ。小林店長が二つ返事で頷いたその時……
ザシッ。
そこに1ダースベイゴマが立っていた。
上空を見るといつの間にか戦闘機の一機が浮かんでいた。ベイゴマは、どうやらそこから牽引ビームで降りてきたらしい。続けて1ダースベイゴマはライトウィップを取り出し、手元の十二箇のベイゴマを操った。
「ベストヒット……UFO!」
冬将軍は放送を聴いてたらしい。
たちどころに上空に十二機の戦闘機が集まって、ありすたちは包囲された。一瞬死んでくれたらありがたい。
ところがこの中で真っ先に冬将軍に立ち向かったのは、金沢時夫だった。
ジェダイとしての修行のせいかか、時夫は既にライトセーバー誘導棒を抜くことが出来た。ありすが真顔で驚く。時夫はすかさず斬り掛かった。だが戦闘機の閃光がひらめき、時夫は一瞬で氷結した。
「時夫さぁん!」
雪絵がポップコーン機関銃を構えた。
「蟻の、ままにィ……」
「待って!」
眉を吊り上げて唄い出そうとした雪絵を、石川ウーが制止した。
フードコンボイの二階から、J隊員たちにコタツを雪原に運び出させている。こんなものまであったのか。
斬りかかったポーズの時夫の氷像の隣で、ウーは1ダースベイゴマをコタツに誘った。
「冬将軍、お鍋をどうぞ!」
なんという大胆さ! これにはありすをはじめ、一同の誰もが呆れている。
「美味けりゃあたしの勝ち。不味けりゃあなたの勝ち。あなたが勝つか、私の鍋が勝つか。嘘もごまかしもない一発勝負よ。それとも、私の挑戦を受ける勇気ない?」
「……アズ・ユー・ウィッシュ」
ザッザッザッ、ドカッ。
ベイゴマはブーツを履いたまま、胡坐をかいてコタツに入った。
「鍋奉行」のウーがすき焼きの具材を採り、「冬将軍」が黒手袋で受け取る。将軍はそれをガスマスクの口の部分を開いて一気に流し込んだ。
そして、ゆっくりと取り皿をテーブルに置く、コトッという音がした。
ベイゴマの身体がブルブルと振動し、ガクッと肩を落とす。効いてる効いてる……。ところがバッと上体を起こしたベイゴマは、右手をウーにかざした。
バキベキバキバキ!
石川ウーと鍋がコタツごと凍り付いている。
ベイゴマはザッと立ち上がった。今度はウーを瞬殺した!
鍋奉行の鍋でも、冬将軍を多少弱らせただけだったのだ。
「……その程度か? オマエたち同盟軍の抵抗は? ハーグワン、ハーグワン、……ロイヤルハーグワン。……実に興味深い」
探偵ガリレオかよッ。
「さぁ白井雪絵よ。こちらへ」
不敵に黒手袋を差し伸べた1ダースベイゴマに、雪絵は毅然と答えた。
「お断りよ。あなたのような地下の手先の極悪人なんかに」
雪絵は両眼をメラメラと怒りに燃やし、マシンガンを構えていた。
「……違うッ、私はオマエの父だ!」
「いや違いますけど。人違いです」
とは、誰もが思う。
「私の父は、私の生みの親は白彩店長よ……もう、許さないんだから」
言いたくはなかった。雪絵の父のような存在が、あの店長だなんて。
「フンッ」
雪絵はポップコーン機関銃を投げ捨てた。
ベイゴマ相手に、食べ物の科術は通用しない。だが時夫を失い、ハーグワンができなくなった雪絵に、どうしてこれ以上相手をHOTにさせる技がある?
古城ありすも小林店長も、なぜか雪絵とベイゴマの対決を見守るしかなくなっていた。
「ソーダ屋の店長さんが、ソーダを飲んで、そーだそーだと云ったそーだ……」
駄洒落! ヒュオォォーーーーオオオ……。これじゃ、逆に寒くなる一方だ。
「このカレンダーは誰んだー? 彼んだー」
対する冬将軍も、定刻軍らしい寒いギャグをかます。
ビュオオオオオオ!!!!
ますます気温が低下していく。
「ふとんが、吹っ飛んだ!」
「レモンの入れもん!」
ズゴォオオオオオオオ!!!
気温の急降下が止まらない。
「ちょ、ちょっと、さ、寒ッ、止めて雪絵さん」
一体全体、白井雪絵は平気なのだろうか?
ありすらは雪絵が永久凍土の世界で、ありのままに「雪の女王」として覚醒したことを知らなかった。
「そっか。……雪絵さんは今、寒いギャグで冬将軍と対決している! 逆に、相手を凍りつかせようとしているんだ。なんて無謀な」
「とにかく、我々の命に関わります」
ありす達は一時、フードコンボイ内に避難するしかなかった。
だが、店長の懸念と裏腹に、気温は氷点下をますます下る最中、雪絵は至って平然としていた。
「……イカはいかが?」
「イカすイカ墨!」
イカにはイカだ。言えば言うほど寒くなる、三段ギャグスライド方式!
「味噌との、Soooo Good(遭遇)……!」
1ダースベイゴマが人差し指をビシッと差しながら、止めを差そうとする。
どうやらベイゴマは味噌が入ったトン汁を実食したようだが、あまりの美味しさに、侵食される恐怖が襲い、すぐに食べるのを止めたらしい。そのくせ、つい口走ってしまっている。
「餡をえぐって、エグリアン(餡)……」
ズドゴゴゴゴゴゴォ!!
雪絵の方が果てしなく寒い……。
氷爆!!
瞬間的に、1ダースベイゴマは凍りついていた。
店長の計らいで、「やる気のないダースベイダーのテーマ」が流れている。一方で雪絵は平気で立っていた。
あの冬将軍が、雪の女王・白井雪絵には勝てなかったのだ。勝敗は決した。
「白井雪絵……恐ろしい子……」
「時夫さぁん!」
雪絵は時夫の氷像に抱きついた。
ハーグワンは、時間を掛ければ時夫を溶かすことが出来た。時夫は意識を取り戻した。そのまま、二人の熱気は周囲の気温を上昇させ、石川ウーをも溶かした。
「あっ、ベイゴマが凍ってる! どうだ見たことか、この鍋の腕前を!」
目を覚ました途端、ウーは勝ち誇った。
「ウー、面白い子。さすが、ハーグワンね……」
ありすは、雪絵の駄洒落は、時夫には聞かせないことにしようと決めた。
ところが、意識を取り戻した時夫はその場にどさっと倒れ込んだ。
「何か食わせてくれ。は、腹減った……」
時夫は北で何も食べずに戦ってきたらしい。ウーのすき焼き鍋は、時夫が美味しくいただいた。
「そういえば……ネルカッツ提督はどうしたのよ? 何か作戦を考えたの?」
「いえ……ネルカッツはカツ屋の二階で『寝る』だけです」
「寝るかっつ」提督か!
ズォオオオ……
「ちっと止めてよ店長、また寒くなるじゃない」
カツン、カツンと階段を降りてくるブーツの音が響いた。
「……店長、カツ丼をもう一杯」
外見だけは老練なドイツ軍人が、シブい声で注文した。
「あいよッ」
「あぁよく寝た。……食ったらワシは二度寝する」
階段を引き返していった。
「おじいちゃんだからね」
ウー、笑ってる場合か?
「帰るわよ、恋文町へ!」
トラックを先頭に、壊れた戦車を逆に連結しようとしたが、無理だと分かった。
キャラピラが回らない。戦車は雪原に置きっぱなしにするしかないが、スーパーカー科術をやる元気もない。
「あたし……車も壊してるのよね……これ借りてていい?」
「もちろん。ご自由にお使いください」
寝ているネルカッツ提督がいる為にトラックは遠慮し、ありす達はJ隊の軍用ジープへ乗り込んだ。
車を出すと、後ろで小林店長が、ネルカッツ提督が食べ残したかつ丼のご飯粒を見て、
「食べ物を粗末にするなぁ------っ!!」
と、死ぬほどブチギレていた。
白井雪絵は後部座席で時夫の隣に座りながら、雪原を見て物思いにふけった。
私は砂糖人間。
名前はまだない。
ある朝、私を店頭に出すので、
「名札」をつけるために
店長が「白井雪絵」とつけた。
色が白いから。
十秒で考えたらしい。
その日の午後。
時夫さんがお店に来てくれた。
連続殺人事件を起こしている店長から
私を救い出してくれた。
二人で一緒に、店長を茸畑に埋めた。
でも、時夫さんには好きな女の子がいた。
伊都川みさえさんという人。
時夫さんは言った。
私はみさえさんに生き写しだった。
私は一体、何なのだろう。
でも時夫さんは私に
私は私だと言った。
ありのままに生きていけばいいんだ、と。
時夫さんの傍に
私の居場所がある限り、
私は生きていく。
ありのままに。
二人で生きていけたら、
……ハーグワン。
いちいち熱い小林カツヲの洋楽着き「ベストヒットUSO」と、雪絵たちの「ハーグ・ワン」のホットさで、氷に閉ざされた世界が溶け出している。
ダークスター軍および氷結城は、ありすの戦車の科術と雪絵たちが倒したものの、まだダークスターが不気味に浮かんでおり、氷結光線を充填している。光線が発射されれば、一瞬で氷結世界は元通りだ。
「クソッ、決め手に欠けるわね……」
『ありすさんありすさん、こちらハーグワン……』
その時、凍りついた電波がこれまでのベストヒットUSOでようやく解け始めて、通じるようになった。「ハーグワン」という名称に、ありすは心穏やかでない顔をした。
『雪絵です。時夫さんも一緒です』
……ハグだって? やっぱし。あの二人。
『無事なのね?』
『はい。上空のダークスターは、ダークトゥルーパーの巣穴です。地上のダークトゥルーパーとつながっています』
なるほど。だから地上軍が打倒された今、ダークスターはすぐに反撃できずに居たのだった。雪絵によると、ダークスター=ダークトゥルーパー、ダークトゥルーパー=ダークスターという関連性が感じられるらしい。
『とすると、残りの地上のダークトゥルーパー達を一斉に打倒しないと、ダークスターは消えないわね』
ラストのすき焼き鍋で、最終的に八割方の敵を打倒した。それでもまだ二割が広大な戦場に散らばっている。
彼らを、限られた時間内に一網打尽に壊滅させることができれば、ダークスターは破壊できる。しかしそれは非常にハードルが高い作戦にも思えた。
『彼らの正体は、諏訪湖の名産……バフンウニまんじゅうに群がっていた蟻です!』
『あ、蟻んこだってェエ?』
驚くのも無理はない。バンバン人は蟻んこだった。雪原を走る戦車からは、地面に這う蟻に戻った彼らの姿は、あまりに小さすぎて見えなかったのだ。
「それはともかく、バフンウニまんじゅうって……、馬ふんなのかウニなのかまんじゅうなのか!?」
ウーが真剣に疑問に感じている。
「そのいずれでもあるんじゃない?」
ありすは苦笑する。
「よし、ここまで来りゃもう作戦変更する!」
ありすは一網打尽の必殺科術を思いついた。
「何する気?」
ウーが心配して無線で聞いてくる。
「敵の正体が見えた今、こっちもこの戦いの意味論で、最終兵器を編み出してやるわよ!!」
ありすの無線は「ベストヒットUSO」のアンプ類に連結された。まさに今、J隊は科術師・古城ありすの真の戦闘力を目の当たりにすることになるのだ……!
白アリさんたら白星食べた
みんなが小さくなるように~
黒アリさんたら黒星食べた
みんなが大きくなるように~
意味という意味が“嘘”となって相転移するCBA48度線。白蟻=J隊の大勢力はますます力を増し、一方で黒蟻ことダークトゥルーパーの残党たちは、あっという間に小さな蟻に戻っていった。
放送内容とは裏腹に。すなわち、意味が逆になる。
バンバン人の氷結兵器群は、急激な気温上昇に耐えられずにショートを起こしていた。それらをありすの科術呪文で勢いの増したJ隊の通常兵器が破壊した。
地上から彼らの姿が一斉に消えてなくなった時、天空の暗黒の星・ダークスターは壮大に爆発した。
「ふぅ~。カ・イ・カ・ン」
「……気が済んだ?」
ウーも呆れるほどの完全なる大勝利を、古城ありすが手にした瞬間だった。
冬将軍対鍋奉行
「やったぜッ!!」
敵基地の破壊を見た時夫は快哉を叫んだ。二人はまた抱き合った。
ほどなくJ隊の大部隊を率いたありすのシャーマン戦車が、二人のもとへ到着した。
「いつまで抱き合ってんの」
戦車から降りてきたありすが声を掛ける。
「あっ」
時夫と雪絵は離れた。その雪絵は、依然として手にマシンガンを持っている。
「ダークスターの弱点を教えてくれて、ありがとう」
……蟻だけに?
「時夫もよくやったわねェ。雪絵さんも無事護ったよーだし」
といいながら、なぜありすは不機嫌なんだ?
「どうせ、地下の連中がでっち上げた宇宙人なのよ」
その時、戦車がガタタタタと派手な異音を立て、小爆発を起こして沈黙した。振り向いたありすはギョッとした顔のまま固まっている。
「……あああ、あたしのシャーマン戦車が、壊れちゃったみたい。科術の使いすぎかな?」
変なものを、大砲に流し込んだからだろう。
大活躍だった戦車だが、科術をMAXで使ったせいで、遂にその役割を終えるときが来たようだ。
「また、スーパーカー消しゴムの登場かよ」
「いいえ。もう疲れたでしょ」
ありすはシャーマン戦車とコンボイの連結を外させると、店長に「乗せてってくれない」と頼んだ。小林店長が二つ返事で頷いたその時……
ザシッ。
そこに1ダースベイゴマが立っていた。
上空を見るといつの間にか戦闘機の一機が浮かんでいた。ベイゴマは、どうやらそこから牽引ビームで降りてきたらしい。続けて1ダースベイゴマはライトウィップを取り出し、手元の十二箇のベイゴマを操った。
「ベストヒット……UFO!」
冬将軍は放送を聴いてたらしい。
たちどころに上空に十二機の戦闘機が集まって、ありすたちは包囲された。一瞬死んでくれたらありがたい。
ところがこの中で真っ先に冬将軍に立ち向かったのは、金沢時夫だった。
ジェダイとしての修行のせいかか、時夫は既にライトセーバー誘導棒を抜くことが出来た。ありすが真顔で驚く。時夫はすかさず斬り掛かった。だが戦闘機の閃光がひらめき、時夫は一瞬で氷結した。
「時夫さぁん!」
雪絵がポップコーン機関銃を構えた。
「蟻の、ままにィ……」
「待って!」
眉を吊り上げて唄い出そうとした雪絵を、石川ウーが制止した。
フードコンボイの二階から、J隊員たちにコタツを雪原に運び出させている。こんなものまであったのか。
斬りかかったポーズの時夫の氷像の隣で、ウーは1ダースベイゴマをコタツに誘った。
「冬将軍、お鍋をどうぞ!」
なんという大胆さ! これにはありすをはじめ、一同の誰もが呆れている。
「美味けりゃあたしの勝ち。不味けりゃあなたの勝ち。あなたが勝つか、私の鍋が勝つか。嘘もごまかしもない一発勝負よ。それとも、私の挑戦を受ける勇気ない?」
「……アズ・ユー・ウィッシュ」
ザッザッザッ、ドカッ。
ベイゴマはブーツを履いたまま、胡坐をかいてコタツに入った。
「鍋奉行」のウーがすき焼きの具材を採り、「冬将軍」が黒手袋で受け取る。将軍はそれをガスマスクの口の部分を開いて一気に流し込んだ。
そして、ゆっくりと取り皿をテーブルに置く、コトッという音がした。
ベイゴマの身体がブルブルと振動し、ガクッと肩を落とす。効いてる効いてる……。ところがバッと上体を起こしたベイゴマは、右手をウーにかざした。
バキベキバキバキ!
石川ウーと鍋がコタツごと凍り付いている。
ベイゴマはザッと立ち上がった。今度はウーを瞬殺した!
鍋奉行の鍋でも、冬将軍を多少弱らせただけだったのだ。
「……その程度か? オマエたち同盟軍の抵抗は? ハーグワン、ハーグワン、……ロイヤルハーグワン。……実に興味深い」
探偵ガリレオかよッ。
「さぁ白井雪絵よ。こちらへ」
不敵に黒手袋を差し伸べた1ダースベイゴマに、雪絵は毅然と答えた。
「お断りよ。あなたのような地下の手先の極悪人なんかに」
雪絵は両眼をメラメラと怒りに燃やし、マシンガンを構えていた。
「……違うッ、私はオマエの父だ!」
「いや違いますけど。人違いです」
とは、誰もが思う。
「私の父は、私の生みの親は白彩店長よ……もう、許さないんだから」
言いたくはなかった。雪絵の父のような存在が、あの店長だなんて。
「フンッ」
雪絵はポップコーン機関銃を投げ捨てた。
ベイゴマ相手に、食べ物の科術は通用しない。だが時夫を失い、ハーグワンができなくなった雪絵に、どうしてこれ以上相手をHOTにさせる技がある?
古城ありすも小林店長も、なぜか雪絵とベイゴマの対決を見守るしかなくなっていた。
「ソーダ屋の店長さんが、ソーダを飲んで、そーだそーだと云ったそーだ……」
駄洒落! ヒュオォォーーーーオオオ……。これじゃ、逆に寒くなる一方だ。
「このカレンダーは誰んだー? 彼んだー」
対する冬将軍も、定刻軍らしい寒いギャグをかます。
ビュオオオオオオ!!!!
ますます気温が低下していく。
「ふとんが、吹っ飛んだ!」
「レモンの入れもん!」
ズゴォオオオオオオオ!!!
気温の急降下が止まらない。
「ちょ、ちょっと、さ、寒ッ、止めて雪絵さん」
一体全体、白井雪絵は平気なのだろうか?
ありすらは雪絵が永久凍土の世界で、ありのままに「雪の女王」として覚醒したことを知らなかった。
「そっか。……雪絵さんは今、寒いギャグで冬将軍と対決している! 逆に、相手を凍りつかせようとしているんだ。なんて無謀な」
「とにかく、我々の命に関わります」
ありす達は一時、フードコンボイ内に避難するしかなかった。
だが、店長の懸念と裏腹に、気温は氷点下をますます下る最中、雪絵は至って平然としていた。
「……イカはいかが?」
「イカすイカ墨!」
イカにはイカだ。言えば言うほど寒くなる、三段ギャグスライド方式!
「味噌との、Soooo Good(遭遇)……!」
1ダースベイゴマが人差し指をビシッと差しながら、止めを差そうとする。
どうやらベイゴマは味噌が入ったトン汁を実食したようだが、あまりの美味しさに、侵食される恐怖が襲い、すぐに食べるのを止めたらしい。そのくせ、つい口走ってしまっている。
「餡をえぐって、エグリアン(餡)……」
ズドゴゴゴゴゴゴォ!!
雪絵の方が果てしなく寒い……。
氷爆!!
瞬間的に、1ダースベイゴマは凍りついていた。
店長の計らいで、「やる気のないダースベイダーのテーマ」が流れている。一方で雪絵は平気で立っていた。
あの冬将軍が、雪の女王・白井雪絵には勝てなかったのだ。勝敗は決した。
「白井雪絵……恐ろしい子……」
「時夫さぁん!」
雪絵は時夫の氷像に抱きついた。
ハーグワンは、時間を掛ければ時夫を溶かすことが出来た。時夫は意識を取り戻した。そのまま、二人の熱気は周囲の気温を上昇させ、石川ウーをも溶かした。
「あっ、ベイゴマが凍ってる! どうだ見たことか、この鍋の腕前を!」
目を覚ました途端、ウーは勝ち誇った。
「ウー、面白い子。さすが、ハーグワンね……」
ありすは、雪絵の駄洒落は、時夫には聞かせないことにしようと決めた。
ところが、意識を取り戻した時夫はその場にどさっと倒れ込んだ。
「何か食わせてくれ。は、腹減った……」
時夫は北で何も食べずに戦ってきたらしい。ウーのすき焼き鍋は、時夫が美味しくいただいた。
「そういえば……ネルカッツ提督はどうしたのよ? 何か作戦を考えたの?」
「いえ……ネルカッツはカツ屋の二階で『寝る』だけです」
「寝るかっつ」提督か!
ズォオオオ……
「ちっと止めてよ店長、また寒くなるじゃない」
カツン、カツンと階段を降りてくるブーツの音が響いた。
「……店長、カツ丼をもう一杯」
外見だけは老練なドイツ軍人が、シブい声で注文した。
「あいよッ」
「あぁよく寝た。……食ったらワシは二度寝する」
階段を引き返していった。
「おじいちゃんだからね」
ウー、笑ってる場合か?
「帰るわよ、恋文町へ!」
トラックを先頭に、壊れた戦車を逆に連結しようとしたが、無理だと分かった。
キャラピラが回らない。戦車は雪原に置きっぱなしにするしかないが、スーパーカー科術をやる元気もない。
「あたし……車も壊してるのよね……これ借りてていい?」
「もちろん。ご自由にお使いください」
寝ているネルカッツ提督がいる為にトラックは遠慮し、ありす達はJ隊の軍用ジープへ乗り込んだ。
車を出すと、後ろで小林店長が、ネルカッツ提督が食べ残したかつ丼のご飯粒を見て、
「食べ物を粗末にするなぁ------っ!!」
と、死ぬほどブチギレていた。
白井雪絵は後部座席で時夫の隣に座りながら、雪原を見て物思いにふけった。
私は砂糖人間。
名前はまだない。
ある朝、私を店頭に出すので、
「名札」をつけるために
店長が「白井雪絵」とつけた。
色が白いから。
十秒で考えたらしい。
その日の午後。
時夫さんがお店に来てくれた。
連続殺人事件を起こしている店長から
私を救い出してくれた。
二人で一緒に、店長を茸畑に埋めた。
でも、時夫さんには好きな女の子がいた。
伊都川みさえさんという人。
時夫さんは言った。
私はみさえさんに生き写しだった。
私は一体、何なのだろう。
でも時夫さんは私に
私は私だと言った。
ありのままに生きていけばいいんだ、と。
時夫さんの傍に
私の居場所がある限り、
私は生きていく。
ありのままに。
二人で生きていけたら、
……ハーグワン。