4-16 業火去り蛮勇あらわれ(カトリック仙人天祐視点)

文字数 1,376文字

 ヤマタノオロチ 業火の前に立ちふさがりて、そびえ立つ山々のごときその姿は炎を通さずに我らを灼熱から守りぬく。その巨体は絶大な妖力で守られており一瞬で燃え上がることはなくとも、度を外れた高温をもって生命そのものが着実に奪われていく。

 そしてその自己犠牲的な行為の中心は、我らと言葉を交わしつづけた『右真中の』さんに違いなく、他の七つなる蛇頭たちさえもかばう形をもって、右真中の身体を形作る蛇体が鱗の一つ一つが、輝きを失っていく少しずつ少しずつ真黒なる炭になっていく。

 一刻の猶予も許されない「ならば」と己自身に切り札の使用を命じていた。

 念ずるとともに一つの至宝が我が手の内に顕現される。その宝貝(パオペイ)の名こそが芭蕉扇。
  
 ひとあおぎ、それだけでその霊威あらたか。

 我らに襲いかからんとした大火炎は火の粉も残さず消え去った。
 大火災の源である大猿が叫ぶ。

 「我が炎術を一瞬にて打ち消しうる? そんなことができる、つまりはその手にあるのは芭蕉扇!。おおう、もはや秀吉としか言えぬこの身体だが脳内に斉天大聖の記憶が浮かぶ。もしかしてお前は牛魔王夫人 羅刹女と縁がありし仙なのか」

「そのとおりよ!義母、羅刹女から借りうけしこの神宝をもって、貴様のごとき悪猿などこの場から消えてしまえ」

 ふたあおぎ。大魔獣であろうと浮かし飛ばしうる豪風を招きながら、私は叫んだ。

「吹っ飛べ!」

 轟轟(ごうごう)、颶風(ぐふう)旋風竜巻となり迫りくる脅威にたいして斉天大聖の肉体をもちし秀吉は、掌をかさね印を結び

「がぁぁぁぁ!
『思えば成る。これ道理』
『富士より重く足は大地に根づきめり込む。ゆえに我は微動だにせず』」

 泰山などではなく富士か。言葉で仙術めいた行為を成そうと、たしかに意識は日本の独裁者にちがいない。気合と言霊によりて、芭蕉扇による烈風に対しても身動きひとつせず耐える敵方。
 
 だがそれは想定範囲内、でなければ困る。遠くに吹き飛ばしたら、それこそこの場で仕留められない。いまやもう身動きできまい、その状況下で三回目。

 芭蕉扇 みたびあおげば、雨が降る

 さっきまで雨雲ひとつなかったこの地の天象の因果を塗り替える。熱帯雨林のスコールやゲリラ豪雨、そんな自然のうちを遥かに超えた大粒雨だれが無数に、肌に激痛を感じるほどに降りかかる。打ちかかるかのごとくに。

ひとあおぎで火を消した、
ヤマタノオロチを業火から救い
 
ふたあおぎで敵 大猿の動きをとめた。

そして三度あおいで雨を呼ぶ。

そもヤマタノオロチとは水害の化身でもある。
この暴雨こそが八蛇頭の彼らにとっては慈雨の薬になるとみこんで。

というこちらの期待道理を上回る想定外の状況が、ある叫び声とともに展開した。

「しゃぁぎゃははははははは!、『右真中の』再生を果たしたすえには、こちらの我がままを聞いてくれよぉ。今この場は『右端』の俺にまかせておけい」


 そんな唯々不快な魔獣でしかあり得ぬ鯨波 喚声 大声とともに、『右端』の蛇頭が身動きのとれぬ大猿に躍りかかる。その攻撃に引きずられるようなヤマタノオロチ本体から、ズルリヌルリと抜けおちたのが、表面全体が炭化して真黒な『右真中』の蛇体。

 私の傍。位相の違う空間でいつ召喚されても良いようにを待機している姑獲鳥のアンナさん。そんな彼女の悲鳴が耳をつんざくように響き渡った。

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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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