2-4 エェッー、いきなりとか【てんゆう、烏丸ちゃんと会話してたら……】

文字数 1,413文字


 槍を突き入れ掻き混ぜ交ぜて、父神母神 国を創りて形づくらん
 伊奘諾(いざなぎ) 伊邪那美(いざなみ) 愛し合いて、
 神々多くを産めり生めりや只管に殖えたり

 火の神 軻遇突智(カグツチ)生まれし時ホトが焼け、太母は黄泉の国へと身を隠したる
 追えど縋れど待つことができずに、かつて愛した妻の腐り果てた姿を()
 逃げし夫は穢れを祓いたもう

 彼、瞳と鼻を洗い清めたりて顕現したるが
 天照(アマテラス)月読(ツクヨミ) そして素戔嗚(スサノオ)なり



 魅力があり神秘的な物語には違いない。
 だが、こちらにはこちらの信仰があるゆえに、違和感がぬぐえないのも仕方なし。

 瞳と鼻を洗ったことのより生まれたとかいっているようだが、そこが気にくわなくてとても腹立たしい。我が身の立場から考えたらムカついて当然であろうよ。造物主による創造とマリア様の処女受胎以外に『男女両性の交わりなしに新たな命が生まれるはずがあるものか』って乱暴な口調で訴えたくなったりして。

 はにかんだ表情の我が弟子、柳生烏丸(やぎゅうからすまる)(べん)を聞く。

「母性原理が強いことは神話からも伺えますね、日本神話における三貴子の話を聞くだに、末っ子だからかもしれませんが鼻洗いの息子神が母を求める所とかホントにそれ、我が国の英雄の恥ずかしい一面というか」

 
 彼女が言及せしは英傑たる雄の姿。彼は、日の本における母性の根本に囚われたようで。

「確かに伝説の剣を最初に振るった男にしては、先ほど聞かせていただいたあの逸話、実に情けない限りだと私も思いますよ」

 私の見解としてはこんなもの。そうなのだ。八岐大蛇(ヤマタノオロチ)をいずれ打ち破ることとなる雄神 スサノオはひたすらに母神イザナミを求めたという。

『母に会いたい、黄泉を訪ねたい。いざ(はは)が土地へ、(はは)の国へ参らん』
とこのように、これらの嘆きといい執着の度合いといい、かなり、いや実に

 この口……さらなる言葉を繋げてみる。
 
「無論、主ではありえず神格 deity であるのはあたりまえとして、なんというか土着神というより……驚くほどに、すごく(ひと)っぽいですね。そちらの古い神話の方々は」

「ああ、それは私もそう思います。八百万の神々は、たしかにどこか人臭(ひとくさ)い。詳しくはないですが希臘(ギリシャ)の神格たちも(ひと)っぽくはありますよね」

 そのような烏丸さんの返答、私たちの軽口に“ 極大の妖魔 “が入り込んでくるなんて、主イエス・キリスト以外は誰も予想できるはずもなかった。


「これなるが卑小なる視点というものか、そんな風にまとめて欲しくはないぞ。我らは飽くまで神である。ただの一つの頭たる我でもその自覚はごまかせぬなぁ」
 

 話しかけられしその美声は艶やかなほどに男のもので、ぞくりとするほどの優美。その顔は無精髭に彩られつつも精悍、のわりには日本の一般家庭から歩いてきたような隙だらけの格好(かっこう)

 だが我が脳中に声が響く、仙としての感覚が訴える、……『こいつこそが大蛇(おろち)だ』と。

 カトリック仙人たる私 天佑(てんゆう)と武娘仙を名乗る柳生刀術家。
 そんな二人の前に、ついに大蛇怪八岐大蛇(だいじゃかいヤマタノオロチ)なる化物が姿を(あらわ)したのだった。

 
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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