2-8 えええ 一からか、一から説明しないとダメかな【てんゆう、誤解発言を聞く】

文字数 1,131文字

 (おのれ)の想い人に無理やりノシかかろうとする男の存在など、許しがたいことこの上ない。
 それはその通りだから、明らかに暴力的な行為をもってしてでも退(しりぞ)いてもらう!

 「でませい!」

 姑獲鳥アンナさんとは以心伝心。『でませい!』の d - の音が声帯を震わせた時点で、小さな私を乗せた彼女は、敵の前へとカッ飛んでいる。烏丸さんと蛇男の間に割り込み召喚するは、攻撃力過多なる(あやかし)、与えられしクリスチャンネームは

「マリア!!!」

 その名をもって主に守られたし中華妖怪は画皮。
 現れたのは妙齢の美女、だがその姿は一瞬。描かれたかのごとき麗しい皮を破り捨てて、男に襲いかかりしは大顎(おおあぎと)の化け物。ヤマタノオロチの両腕をズタズタに喰い散らかした。

 女性の尊厳を軽くみた(やから)が血まみれになっていく。
 イエス・キリストよ、許したまえ。このようなやり方は我の未熟さゆえに。

 力量のなさゆえに、こんな手段しかとれない
 決して肯定を望んではならない(とが)

 そしてその事実、傷つけたことを『つらい、つらい』と己に酔えば、
 それこそが心の醜悪な有様となろう。



 冗談みたいに壊された大地、隕石が落ちた後のように(えぐ)れた破壊跡にて、自らに(ほどこ)していた縮身の術を解いて烏丸さんに声をかけた。

「大丈夫でしたか?」

「もちろん、と言いたいところですが、あのまま刀を奪われ押さえつけられてしまえば、切り札を使えぬままに(なぶ)り者にされてもおかしくはなかった。危なかった、助かりました」

 ほう、なにか私の知らない追加武装でも用意しているかも知れないな。
 そういう抜かりがない所は頼もしいんだが、目にいっぱいの涙を貯めている様子はとても可愛いらしい。さりとて声に震えはない。柳生烏丸、まったく弱々しく見えないのが不思議であった。

 とりあえず想い人が無事なのは確かめたので、注意の集中をヤマタノオロチのほうに戻す。未だに歯を打ち鳴らしている画皮マリアから距離をとったようだが、その両腕は拳を振るえる状態ではない。

 蛇の化身。
 痛々しい様子のわりに、呼吸なしと思えるほどの物静か、奇妙なほどに深深(しんしん)と密やか。

 からの一転、大笑いしながらの饒舌(じょうぜつ)にへと……
 
「ははははは、伝えられしは男を文字通りに食いものにする女怪 画皮
 そんな存在を聖母の名で呼ぶ、クリスチャン仙人が我が前に立つか。面白い、面白いぞぉ」

 なんか鬼の首を取ったように騒いでいるが、あーキリスト教の誤解あるある。
 マリアって聖母様だけじゃなくて、何人も何人もいるんだけどねぇ。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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