2-18 うっしゃ、泣くだけ泣いてもらって話を聞く主義【てんゆう、聴くモード】

文字数 1,057文字

 いきなり泣き出してしまった、いわば『孫悟空こらしめ隊』の武娘仙、私の親愛なる仲間、柳生烏丸。背後で巻き起こった涙雨。唐突な展開に対応するにあたって、なぜか目の前の蛇に『許可』を求めるような視線を向けてしまった。そして目と目が合う……なにかしら通じ合えた模様。

「……いいよ。僕は僕で色々、君たちのこと納得できたからさ。ほらほら君の愛しい女性が泣いているんだぜ、二人は想いあえてるんだからさ、声くらいかけてあげなよ」

彼の言葉どおり行動をとることに若干の抵抗はあったのだけれど、こちらの安全が保証される限りにおいて、そんな躊躇いはくだらない意地に違いないので、感情の高まった想い人の様子を間近で確かめたいという気持ちに素直に従った。声をかける。

「どうしましたか、烏丸さん。さきほどの話の中に、なにか貴女の信仰心を傷つけるような文言が含まれていたとか、そういう……」

さっきは少々興奮していた。ノリと勢いに任して、信仰的にも過激なことを口走っていたような気がしないでもない。

「ちがうんです、そうじゃないんです。そんなんじゃなくて……わ、私は、私の母様を信じて良いのかも、と思えた途端、胸が」

ああ。個人的な家庭の事情とか精神的外傷(トラウマ)とか、その類の話だな。これはしっかりと聴かねば。

「もしよければ、その件、話せるだけ話してみませんか。余計な茶々は入れさせませんので」

と優しい声を女柳生剣士にかけながら、『右真中の』の方を向き、ギロリと(にら)む。

「了解、了解。静かにしておくよ、僕の言葉による精神に向かう攻撃の標的はカトリック仙人の天佑、君だったわけで、その勝負はさっき、こちらからしかけた精神戦は完膚なきまでに、僕の敗北となったわけだからさ。的を変えて追加攻撃なんてまねはしないから、安心おし」

「とまあ、ヤマタノオロチ氏からの言質もとれましたので心の(すき)を狙われることもないかと。烏丸さん、涙が収まってきたら、話したいと思うことだけを話してくれると、私は嬉しい」

嗚咽とともにフルフルと震える、彼女の一見華奢な肩に重ねたくなる我が掌をグっと抑え、意識的に慈愛の感情を高めながら傍らで、ただ待つ。しばらくの時間がたった後、ようやく語り始めた声は、掠れているのにどこかシットリとしており、未だに美声であった。

「こんな時、こんな場所なので詳細なことを伝えることはできませんが、こ、この身は、柳生烏丸は、父と母が若いころの過ちの結果としての生を受けたのです」
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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