2-2 えいめん、すごい聖女に育つかも【てんゆう、弟子が可愛くてしかたがない】

文字数 1,480文字

 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)
 私が全力をもってキリスト教への回心に導くべき、この島国一なる大蛇怪

 クサナギの剣。
 それなる極上の武具をもって、かの大妖魔(ビッグデーモン)は打倒されたという。
 


「それでは最大規模の武家による(いくさ)で海に沈んだは、ホンモノのクサナギではなかったと……」

 嬉々とした様子で語り続けるは、我が信仰においての弟子。彼女は柳生烏丸。

「ですね、そうともいえます。最後の源平合戦、若武者に育った牛若丸の失態によって、壇ノ浦に消えた天叢雲剣は、偽物というわけではないですが、失われしソレは形代(かたしろ)なんです。八岐大蛇(ヤマタノオロチ)という大蛇怪(だいじゃかい)に腹から出てきたという剣『ホンモノそのもの』ではない」

 それにしたって、この小柄美女(こがらびじょ)、ほんとうに剣術が好きなのだな。武士の娘とはいえ、これほどとは。やはり日本人は戦闘民族なのか?……そういうのは語弊ではあろうが、武家政治というなの軍事政権が源頼朝、いや平清盛から続いてきたのは間違いなく。

 こんな思考、こちらの戸惑いを気づきもせずに……いやそうではないのか。

「『それそのもの』の(つるぎ)は伊勢神宮を経由してヤマトタケルの手へと渡り、彼の死後も色々あって、熱田神宮の祀られることとなったわけでして……。そもそも我らの(みかど)たる天皇の持ち得る『武力の象徴』こそが三種の神器が一つ、草薙の剣でありまして」

 あああああ、まなじりに涙が溜まりそう、鼻がツンとなる。気づいてしまった。この女性は、おしゃべりが本当は好きでたまらなかったのに、誰も相手がいなかったから夢中になってるだけだ。こちらが若干ひいてることも承知してるのに、舌を止められないほどに今までずっとずっと寂しかったと……どうすればいいんだ、この可愛い生き物。

 だけどダメなんだ。このままじゃこの人は、永続的な幸せには届かない。

烏丸(からすまる)さん。貴女(あなた)、誤解されやすいでしょ。特に主キリストへの信仰心を疑われたこととか多くありませんか?」

「なぜ!?、そのことをご存知で?」

「いや、ご存知だったわけじゃないんですがね」

 う〜ん、どこから説明すれば良いだろうか。上から目線になってしまうかもしれないが弟子を幸福に導くのは師匠の(つとめ)であろうよ。つっこみに容赦(ようしゃ)はいらないよね。

「あのね。日本の正教会は天皇陛下に祈りを捧げるでしょ。そのことで右翼的な宗派だと思いこんでる一部の日本人、けっこう多いんだと思うなぁ(わたし)

「なにを言ってるんですか?。そんな莫迦な!」

 あーやはり、こういう人格か。人の世から消えることのない汚濁、そんなものに一切近づこうしないから、剣術以外の心法にとても(うとい)わけだ。これは教えてあげないと仙としていずれ()んでしまうかもな。さてどこから話せば良いだろうか。とりあえずは聖書の引用から。

「マタイによる福音書 第7章13 『狭い門から入れ。滅びにいたる門は大きく、その道は広い』柳生烏丸(やぎゅうからすまる)、貴女は常に狭き門へと向かう人だ。だが世に(うご)めく人びとの大半はそうではない。とどのつまりは……そういうことなんですよ」

 小柄さと若々しさのわりに、
 シワもないのにキョトンとした表情はどこか老けていて

“ 孤独なる漂流者(ドリフターズ)の疲れに満ちた顔 ”

 ああ私 カトリック仙人 天佑こそが、我が想い人を守らねば。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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