4-1 悪魔崇拝の集会(サバト)にちかく【カトリック仙人 天佑 視点】

文字数 1,795文字


 これは事後報告のようなものだ

 この国のモスクと教会をひたすらに破壊している斉天大聖 孫悟空。その大仙が化けているかもしれぬ独裁者。この国に災厄をもたらしている首相、その政治的な権力が集中している人物がひたすらに閉じこもっている場所であり、軍事的な守りで固められた、この国唯一の近代的なビルディングに、我々は潜入した。政治高官たちがクーデター計画、つまりは、それに乗じて大猿王 孫悟空を捕らえ、できれば封じてしまうために。



 その突入劇。そこで見たもの、見ざる得なかった状況は、

 詳しくは言わない。言いたくもない。かなりの大きさのある一部屋でのできごと。
 それは優生学の名を借りた、ただの下種な性癖の発露だったり
 進化と進歩を混同した知的怠慢の引き起こした、性的な弱肉強食を謳う極悪の宴

 サバトそのものの、それ。



 とりあえず、その部屋の全員を眠らした、哀れ極まりない犠牲者たちも、一片の善性させ見当たらない加害者どもと、そして加害と犠牲どちらの属性かも判別しづらい、おそらく両要素混ざり合った人々。そんな大人と子どもがかなりの人数、さきほどまでは蠢いていた。

 平気で薬物さえ利用していたようで、それだけでも加害側は万死に値するだろうが、それを軽く超えた常軌を逸した極悪、結論から言おう、この国の殺戮者でもあり独裁者、その男の正体は孫悟空の化身などではなかった。同じ仙界の住人がそこまでの下種でないことに安堵は覚えれど、そんな安らぎを粉微塵にする非道。



 独裁を貪る暗愚そのもの為政者。その男は一見、赤子を抱きかかえているように見えた。だがよくよく観察してみると、その赤ん坊は中年のその腹に癒着していた。そしてその赤子は、若さとか生気とかが微塵も感じられぬほどに衰弱している。それこそ、まるで若さそのものを吸い取られているかのごとくに。

 そこでどこかで知った科学的生物学的な実験例が頭に思い浮かんだ。年老いたマウスと年若いマウスの身体を癒着させ血管を繋げたら、老体のほうが若返ったという研究結果。

  脳内が泡立つほどの、怒りという憎悪を通り越した嫌悪、この蛮行を止められなかった人類を呪いたくなるような悲嘆、そんな色々な激情で、気が狂いそうにではない、何秒間か、本当に私も仲間たちも、気が狂ってしまったに違いない。

 私ほど細かく状況を察せずとも、男性よりも強化されがちな女性的な直感により、正しすぎるほどにその状況状態が判断できてしまったのだろう。烏丸さんの殺意、その歯止め止め金が外れたようだ、彼女の脳内に激烈な怒りが荒れ狂う様を、外見、表情からも確認せざるをえなかった。

 加害者どもを皆殺しにしようとする我が妻、私の想いびと。他の仲間たちも同じ気持ちだったと思う



 それでも私は、この仲間たちの長として、なんとか、自制を求めるべき……、抑制を呼びかけ、必死のその努力により皆は、なんとか落ち着きを取り戻していった。


『許しこそが、キリスト者の求めるべき精神。仙としても血の汚れを避けるのは当然であり……』

などというお題目を何度も何度も、心の中で繰り返していたのだけれど

 それなのに、どう見ても加害側のだれかの首にかかっている、シンボル
 聖の象徴たるはずの、私たちの信仰の十字架が、
 そんな存在を確認してしまったら、もう、なにもかもが煮立っているようで

 思考に割り込む、私の心的外傷(トラウマ)

 あの日見た涙、反イスラムの連中がことさらに取り上げる、ムハンマドさんのアイーシャにおける色々とは比べ物にならない、まったく言い訳の通用しない、そう我らの罪。私が当事者でないことなんて、なんらあの犠牲者にとっては、子どもたちにとってのなんの贖罪になりわしない。


 実は誰よりも動揺していたのは、カトリック仙人なんて気どった名乗りに、日頃からいい気になっていた私だったのか。きづけば、気が狂わんばかりの雄叫びをあげていた、呪いに満ちた感情を撒き散らす、止められるはずもなく


 そんな私を抱きとめてくれたのが、烏丸さんで、
 彼女の涙を視界にいれたことで、すこしだけ心が休まるのを感じた。

 独りでなくて良かったと、私も泣くことしか、
 今はひたすらに涙をながすことしか、できることはなかった。


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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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