2-11 うし(気合い)、守れたのかな【てんゆう、話し合える状況になる】

文字数 1,286文字

「あぁ、もうええわい!。今はそこの極上の女と楽しみ合いたくてしょうがない」

 蛇同士の交渉は決裂か?。なればこちらも全力を持って攻撃的対応をとらしてもらう。切り札、秘宝秘奥を使い尽くしこの身が滅びはてようとも、なにがあろうと烏丸さんを守ることは不変の決定事項なり。

「だが正直なとこ『右真中の』お前に嫌われることのほうが『右端の』我にとっての重要ごとでな。その人型、我の好みの容姿であったことを感謝せえよ」

 私を完全に無視した形で、彼らが言うところの『右真中の』にかけられたこの言葉。『右端の』の蛇化身にとってはこちらの殺気は、柔らかなそよ風のようなものに過ぎないのか、僅かなりにも驚異として考慮されてないのであろうか。

「千年の時を超えるほどに共にいたが、まったく想像もしていなかったよ。どうでもいい想いを告白してくれてありがとう。未来永劫、僕には舌先わずかでも触れるな。さぁ本体に(かえ)った(かえ)った」

「いいよるわい、いつか巻きつき組み伏してやるから待っとれよ『右真中の』。では色目人の宗教にかぶれた漢人仙人と和人女仙、その魂気にいったぞ。縁があったらまた()おうな、特に女剣士は楽しみにしちょれ、邪魔が入らなければ想像もできぬような感覚を教えてやるでなぁ」

 こちらもいい加減ぶちキレそうだったので、つい啖呵(たんか)をきるのを止められず、

「そんな機会は許しませんのでご心配なされずに、挑戦されるなら寸刻みにして大蛇酒(オロチざけ)です」

 瞬間言って後悔。しまった、いらない言葉だったかも。この行為が原因で去りかけた危険が再燃したら果てしないほどに私は愚かだ。静かな口調、明瞭な発音でも感情は爆発している。(おの)が目も血走っているかもしれない。

 しかし返ってきたのは、好ましいと感じるほどに精悍な笑顔。こんなの戸惑うに決まってる。

「いい顔でいーい男だ。さすが我が認めた漢人よ。ではの、再会できる日を期待しておく」
 
 心配したようなことはなにも起こらずに、この長い洞窟の光届かぬ奥の奥へと戻り行く、最初に会いしヤマタノオロチの化身。なんというか、こちらの身が震えるほどの強力な個体であった。

 彼が身を引いたと同時に、隣の烏丸さんの緊張が解けていく様子が見てとれる。
 やはり怖かったのだろうな。

「やっと立ち去ってくれたか、自らの一部とはいえ受け入れ難い側面だ」

 そんな言葉とともに麗しい男装少女のような彼『右真中の』蛇化身は、綺麗にいずまいを正して、私たちに頭を下げ口上を述べた。
 
「カトリック信徒であり仙人でもあるところの天佑様と、柳生刀術を修めた武仙である柳生烏丸様でしたね。このたびは、かの名高き大猿王 聖天大聖孫悟空を討伐するために我我(われわれ)らの力を求めてこの場に訪問してくださったと、こちらは存じております。一頭が非礼の謝罪をここに。そして、これらなる身への高き評価に多大なる感謝を……」

 その礼のとりかた見事なり。申しぶんなく誠意真心がこもっており、微塵のごまかしもなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み