3-9 「宗教と宗教」考(モスクにて⑥)【柳生烏丸 視点】
文字数 1,778文字
「あのさぁ、情交の気配も生々しい新婚つがいのイチャつきの邪魔をする形になるのだけど、質問いぃい?。キリスト様とやらの尊さが未だにピンとこない荒神からで申し訳ないけどね」
いきなり会話に割りこむ声、天佑さんの左腕に絡みついた白い蛇の輪、そんな異形が口を聞いたのだ。にしてもなんだ、いきなりこの言い草。くそ、赤面なんぞしてやるものかよ。
「いきなりですね、ヤマタさん、空気を読んでほしい所ではありますが、確かに我ら仙人夫婦だけ会話に興ずるというのも、そちらにとっては理不尽な話。いい機会かもしれませんね、会談の場をもうけますか。アンナさんもマリアさんも出ませい。お話しを楽しみましょう」
姑獲鳥のアンナさんは羽毛をまとった妙齢の女性、画皮のマリアさんは豪奢に着飾った少女、どちらも女人の姿で目の前の空間から、にょっきりという感じに姿をあらわした。その二人を特に気にするでもなく、赤目白蛇の姿をとったヤマタノオロチは言葉を続ける。
「その七つの大罪のさぁ、憤怒を司るヤツがいるじゃない。サタンとかいう名の蛇、蛇妖の類いのことは大体わかるとはいえ、旧約聖書あたりまで文化圏が離れると、基本的な概要しか把握できないんだけどさ、それにしたってあれはナイわぁ」
「なにやら憤慨しているようですが、要点をいってくれますか」
「なんで君ら蛇を邪悪の象徴にしとるの?。なんで、くちなわさんを差別したがるんですかー、うちらネズミをパクパクするから益獣やぞ」
カトリック仙人天佑のうながしに対して、オロチが発した疑問は蛇体の風評被害に関わるとことらしい。それにしてもまた、くちなわ(口縄)とは、その肉体を指し示した古い忌み語を。
「そのアンタをパクパクした、私から言わせると、ホントに益獣そう思うぞ、鳥肉のような美味だった」
と、間髪いれずにヤマタノオロチに、エグい言葉を返しをしたのは、画皮のマリアさん。この前の闘いに関する雑感なのだろうか、なんというか当世風の言い方をすれば、じつに不思議ちゃんである。
「ごめんなさいね、オロチさん。このこ口の聞き方を知らなくて。でも……良いこなの」
姑獲鳥のアンナさんは、この前と変わらず、女らしい優しさでいっぱい。
「欠損は一時的なものだよ。そして君たちとの戦いで両腕をうしなった彼は、僕であって僕ではないというか。ああ頭が八つあるというのは、めんどくさいしややこしい。じゃなくて、僕らの肉体がどんな味がするかは、そんなことはどうでもよくて、どうして!サタン、邪悪王の象徴に蛇をつかったんだよ、一神教系の宗教は」
「というか、ヤマタノオロチの右真中のさん、なんか口調が出会った頃と違いませんか。くだけすぎというか。にしても的を得た呼称。邪悪王。かの人類の絶対敵対者のことを面白い表現をしますね、
和人たちの祟り
軽く空気がピリっとした。
「というか、君も変な言い方するね、ヤオロズって、ウチんとこの神々のこと言ってるの?。まぁそれはともかく、どうなのよそこんとこ、ちなみに人の感知し得ない古い時代に実際起こったかもしれないナンラカを聞いているんじゃないからね。そんなんガチ信者の君に聞いても『真実です』以外の答えなんか返ってこないだろうし。こちらが聞きたいのは、なんで延々とその最悪に『蛇』を印象をあてはめつづけたのか、ってこと」
「えらくこだわりますね、いや、もちろんその気持ちはわかりますけど」
「だって君のところの悪魔のイメージとかさぁ激烈にヤバいじゃない。Devil とこちらの妖怪とか印象とか比べようもないくらい殺伐グログロっていうかさ、そっちの主とやらの敵対者だからといって怖いイメージ盛りすぎじゃね 討ち亡ぼす者とはいえ、あの扱いはないよ」
「あー、そこはよくある誤解なんですけど、神に敵対者なんていないんですよ。というか我らが主に敵対できる実力をもつ存在なんて者がいるわけないんですよね、神は悪魔を打ち滅ぼしたりしませんし、その必要もありません」
天佑さんの見解はなんなく理解できた。そうなのである。唯一絶対なる御方、いわば万物においてぶっちぎりに最強であり別格、そんな存在が我らの主であるのだから、対抗できる者、抵抗できる勢力も一つもないのだ。