1-2 アンナさんと一緒は気持ちいいな【やぎゅう からすまる 女性にふれる】
文字数 3,228文字
この柳生烏丸 にとって、もはや師匠というだけではなく、一番気になる男性となってしまった天佑 どの。そんな彼を視界にいれるのは、どうにも恥 ずい。飯屋 から出た私たちの歩み、ただの腹ごなしの散歩のようなもの、今なにか目的地のあるものではなく。
そんな行動を『良し』としてこの小柄な女の身をズンズンと前へ前へ。必然『後ろからついて来てくれるはず』と信じながらの移動となった。振り向きたいけど何度もそれを繰り返してしまえば、それこそ……こちらの気持ちなど筒抜 けだろうな。
そんなわけで街の者が気合をいれた、その製作物は横目で流し見ることしかできなかった。駅の真正面、英雄スサノオによる大蛇退治の場面を描いた石造、ちら見ではあるが、ヤマタノオロチが悪龍の姿で表現されてるのは、これも西洋化の影響であるのかなと思ったり。
アジアでは龍はむしろ聖側 で、ヨーロピアンドラゴンこそがダークサイド。まぁ、そんなこといったら、本来 ペストなど伝染病の感染源ネズミを捕食してくれる益獣が『悪』あつかいされるのが色々おかしいんだけどな。(創世記を含む旧約聖書を愛読しているクリスチャンが言うべきことではないかも)
いきなりの怖気 。
益体 もない考えが強制停止。
振り向くことはせず、聞こえるか聞こえないかの音量で
「……天佑 どの」
後ろから優しく肩に手をおかれた。それは彼の掌 に間違いないという確信。
この行動が伝えてくる意志を理解。つまりこれ以上は口を聞くべきでなく、我らを狙っている誰かに、気づいたことを気づかせないように、そんな行動が求められている。
こんなにも私が察 し良く振舞 えたのは、たぶん、触 れられた感じがしないほどに柔 らかい重さが肩口から伝わってきたからで、頬 は発火するかと想えるほどに熱くなったが、心臓の鼓動 はむしろ穏やかに導かれた。まだ天佑どののことはまだほとんど何も、知らないに等しいけれど『この人で良かったな』と素直 に想 えた。
「少し場所を移しますか、身隠 しの術 をお願いします」
彼が声を届けようとしているこの耳でさえ、聞き逃してしまいなほどの囁 き。
それほどに小さく、それほどに僅か。それでいて森の奥にまで響くような深さ。
聴き惚れて呆けてしまいそうな乙女心、そんな業 をぐっと抑えて落ち着いて……武士の技というより忍びのそれであるが、彼らを従えてこその我ら。世間の表に出せなかったのが我が名『柳生烏丸 』であるし、さらには戦国の終わりに生まれた私。穏形 、その基本くらいは修 めている。
物音、かすかに聞こえることさえ許さない、他人はもちろんのこと、自身から生じざるえない残響さえもを、己が感覚器に寄せつけないことこそが肝要。私の仙道による身隠しは『忍びの術』その延長線上にある。
そして私は初めてカトリック仙人による召喚術、その行使を目撃する。
「……出ませい。《クリスチャンネーム=アンナ》」
天佑 どのが呼びかけたるは、アンナという名。
聖母マリア様を産んだ母親と同じ、そんなクリスチャンネーム。
そして現れた裸の女性。一目で直感できたのは、彼女が子どもの母である、経産婦に違いないということ。一瞬にして纏 った羽毛でできた着物、それを媒介 として彼女の姿が少しずつ少しずつ変化していく。私も天佑 師匠 もこの女性も、すでに身を隠した状態だ、ふつうの人間はもう気配を感じとることさえできはしまい。世界の秘密は隠さなければならない、その必要にいらない抵抗を示すようなヤカラが、こちら側の世界に立ち入ることなどあってはならぬだろう。
「貴女 ならできますね。呼び出した姑獲鳥アンナ、彼女についてきてください」
身を軽くする、私は空を泳げない。まだ飛仙の領域に私は達していないがゆえに。
自らを羽毛と変わらぬ存在と看做 す、中華武術の軽気功までには至らずとも、日本武術と仙道を合わせることに日々修練を繰り返す柳生烏丸、この程度の術、言われたらすぐにできる範疇 。
アンナというクリスチャンネームの女性、その手をにぎっていたはずなのに、いつのまにか彼女は中華の化物 、両翼のもつ女怪と成っており、鳥妖の羽毛(腹の部分)を握っている私の左拳。気づいたら一緒に空を、連れて行かれる形で飛んでいる、そんな状態。じつに爽快、楽しさと喜びのに満ちた感覚に包まれる。やはり修練を繰り返して、がんばって、いずれ飛仙の領域には至りたいなぁ。
さきほどから包まれている『快』。上に視点は向ければ蒼き日本晴れ、下には先ほど歩いた街が小さく輝く、だけど、私たちに纏わり続けている不快な視線も確かに感じるのだ。
「向こうも人目を無視して襲いかかる気はないようですし、そうですね、川原にでも誘導しますか」
もう必要もないのに、やけに小声だなと思って、声をしたほうに目をやると、小さな子犬くらいの大きさの想い人、カトリック仙人なる天佑 どのがいた。アンナの翼、その間にはりついてる姿は騎乗するかのごとくで。
「っ……、」
頭がくらくらする、なんか声がでそうになった。なに?いったい、この胸にわいてくるフワフワした感じ、これはなんなの。母性?、いやこれは絶対に、それに絡めたらいけないナニカだ。
私の頭の中が少し煮立っている間も、チビ天佑 どのはキチンと状況を進めてくれたので、非常に助かる。まさかこちらの煩悩 に気づいているとは思いたくないだが、なんか色いろ流してくれたみたいだ。私、柳生烏丸 は《夢中だった》《めったにしない空中散歩に心奪われていた》と判断しててください、たのむから。
そんなこんなで、いつのまにかに、果し合いの状態となった川原へと
互いに場を合わした形にちゃんとなったあたり、人気 があるとこでもかまわず、というわけではないらしい……ではあるのだが果たして敵は、どれほどまでに正気なのか。戦いの鉄則、その一つであるが、相手の理性に期待しすぎてはならないのだ。
敵対、私たちの前に立った人物。覚えがある、というか先ほどの飯屋 にて、二つ隣の席にいた男だ。その彼がかぶっていた帽子を脱いだ、瞬間その後……見てしまったのだ。小人のようなサルどもを産み出している、というより血膿 のごとくに膿 だしているかのごとくの、その異常な光景を、血に染まっていくその顔を。
人の毛根に自らの獣毛を仕込むとは、えげつない。命は奪ってはいないかもしれないが、これはむごい。この男の頭皮はもうズタボロだ。稀代 なる猿仙 が仕掛けた術の一部とされたしまった人 。彼の身体はもう、天界をケンカを売るほどの暴威、そんな妖 が弄 ぶオモチャでしかなかった。
聖天大聖 孫悟空、その獣毛から生まれる極小猿王どもが……倒れ伏した男が失った頭髪のかわりとでもいうのか、ものすごい勢いで、そう、まさに雲霞のごとく化け物たちが湧 いてくる。そんなヤツラが群がり群がり群がり群がり群がり群がり、カトリック仙人 と正教女仙 、天佑 どのと私 柳生烏丸 の二人に襲 い掛 かってきたのだ。
そんな行動を『良し』としてこの小柄な女の身をズンズンと前へ前へ。必然『後ろからついて来てくれるはず』と信じながらの移動となった。振り向きたいけど何度もそれを繰り返してしまえば、それこそ……こちらの気持ちなど
そんなわけで街の者が気合をいれた、その製作物は横目で流し見ることしかできなかった。駅の真正面、英雄スサノオによる大蛇退治の場面を描いた石造、ちら見ではあるが、ヤマタノオロチが悪龍の姿で表現されてるのは、これも西洋化の影響であるのかなと思ったり。
アジアでは龍はむしろ
いきなりの
振り向くことはせず、聞こえるか聞こえないかの音量で
「……
後ろから優しく肩に手をおかれた。それは彼の
この行動が伝えてくる意志を理解。つまりこれ以上は口を聞くべきでなく、我らを狙っている誰かに、気づいたことを気づかせないように、そんな行動が求められている。
こんなにも私が
「少し場所を移しますか、
彼が声を届けようとしているこの耳でさえ、聞き逃してしまいなほどの
それほどに小さく、それほどに僅か。それでいて森の奥にまで響くような深さ。
聴き惚れて呆けてしまいそうな乙女心、そんな
物音、かすかに聞こえることさえ許さない、他人はもちろんのこと、自身から生じざるえない残響さえもを、己が感覚器に寄せつけないことこそが肝要。私の仙道による身隠しは『忍びの術』その延長線上にある。
そして私は初めてカトリック仙人による召喚術、その行使を目撃する。
「……出ませい。《クリスチャンネーム=アンナ》」
聖母マリア様を産んだ母親と同じ、そんなクリスチャンネーム。
そして現れた裸の女性。一目で直感できたのは、彼女が子どもの母である、経産婦に違いないということ。一瞬にして
「
身を軽くする、私は空を泳げない。まだ飛仙の領域に私は達していないがゆえに。
自らを羽毛と変わらぬ存在と
アンナというクリスチャンネームの女性、その手をにぎっていたはずなのに、いつのまにか彼女は中華の
さきほどから包まれている『快』。上に視点は向ければ蒼き日本晴れ、下には先ほど歩いた街が小さく輝く、だけど、私たちに纏わり続けている不快な視線も確かに感じるのだ。
「向こうも人目を無視して襲いかかる気はないようですし、そうですね、川原にでも誘導しますか」
もう必要もないのに、やけに小声だなと思って、声をしたほうに目をやると、小さな子犬くらいの大きさの想い人、カトリック仙人なる
「っ……、」
頭がくらくらする、なんか声がでそうになった。なに?いったい、この胸にわいてくるフワフワした感じ、これはなんなの。母性?、いやこれは絶対に、それに絡めたらいけないナニカだ。
私の頭の中が少し煮立っている間も、チビ
そんなこんなで、いつのまにかに、果し合いの状態となった川原へと
互いに場を合わした形にちゃんとなったあたり、
敵対、私たちの前に立った人物。覚えがある、というか先ほどの
人の毛根に自らの獣毛を仕込むとは、えげつない。命は奪ってはいないかもしれないが、これはむごい。この男の頭皮はもうズタボロだ。
聖天大聖 孫悟空、その獣毛から生まれる極小猿王どもが……倒れ伏した男が失った頭髪のかわりとでもいうのか、ものすごい勢いで、そう、まさに雲霞のごとく化け物たちが