2-20 うむうむ。向上を志した人の過去、実に尊い②【てんゆう、語る】
文字数 1,553文字
母への不信、人の子にとって根源的とも言える不安を訴える武娘仙。
「烏丸さん、その疑念を口に出したことは今回が初めてでしょう」
そんな彼女に自然と暖かく声をかけれて良かった。
「え、っはい、そういえば確かにそうですね」
予想以上に最高の答えに、こちらも破顔一笑。
「そういう在り方が当たり前であることは、貴女が賢明であることの証明なんですよ。素晴らしい人格です。たとえその気がなかったとしても疑心にかられて口を開けば、そこを起点としてひどい噂がたつことがあり、その結果、人間をやめているかのような悪が群がってきて状況を破滅的にしてしまうことさえある」
「私の気持ちは、そんなに褒められたわけではなくて……」
「いいえ、誇っていいほどの美的資質です。負の気持ちがいかに大きかろうと覆って溶かしてしまうほどのいわば言動様式。だとしても辛かったでしょう、古代ギリシャのミダス王を童話にて語った『王様の耳はロバの耳』。我らの聖典、新約旧約両聖書に記された知恵ではないモノとはいえ、あの物語は宝玉のごとき叡智を示している。いいですか、よく聞いてくださいね」
こちらを真っ直ぐと見つめ返す瞳、常に良い姿勢が、なおのことシャンと気に満ちる。烏丸さん完璧傾聴モード。
「それこそ、主イエス・キリストの思召しかもしれません。母に対する疑惑を自らの胸のうちにしまい込み、それこそ仙となった貴女は常人では体験しようのないほどの長い長い年月『ロバの耳』と告白することを耐え忍んできた。そして今日この日、自惚れでもありましょうが一人の男として柳生烏丸を支えることのできる私、カトリック仙人天佑が、悩み苦しみ続けていたその胸の痛みを癒す場に居合わせることができた。この心はこの状況こそを『奇跡』と判断する」
目の前の可愛らしい顔が色づく花のように紅潮していく。麗しい美しい。偽りなどあるはずもない言葉をつづけよう。
「昨今の定義はともかくとして、科学的な非実現性は個人的にその要件にはあたらないと判断してます。人を幸福に導く偶然こそが、ソレに値すると信じたい、私たちが想い合えた今こそが『奇跡』だと」
そして彼女の背中にユックリと手をかけ、そっと柔らかに抱きしめる。
僅かな強張りがユルユルと緩んでいく。
2、3分の沈黙、暖かい体温を互いに感じあう。機 をみて質問。
「ここが1番大事なことなんですよ。決めつけるような物言いになってしまっていたら即座に否定してください。貴女の母と父は、貴女に対して暴力的でしたか」
間を置いて首を振る彼女。
「嫌がらせなどはうけましたか、側にいると酷く居心地が悪かったとかは」
「ありません」
きっぱりと。
「では母自身、父自身は貴女にとって心地よい存在でしたか」
「そうだったと思います……父に会えたのは数えるほどの機会でしたが、」
答えは明確、涙にぬれてそうな声でも、その響きはハッキリとしている」
「なら大丈夫です、我が眼前の女人は自らの感覚をもって両親の親愛を信じて構わないでしょう。 貴女は沈黙の行を耐え続けることによって、ご両親を守りきったのです。『ローマ兵と』『家の爺さんと』などという卑劣な噂をはねのける美しさによってこそ、我らの信仰対象たるイエス様、マリア様、ヨセフ様の聖家族は輝き続ける。聖母の貞節を信じるかのごとくに貴女の母を信じなさい。キリスト教正教会信徒、武娘仙 柳生烏丸。その『個』においては、それで良い」
そして、どの子どもも両親に深く望んでしまう関係性についても一言。
「それに結果だけみても、貴女が産まれたのですよ。ご両親の『恋』は決して『過ちなどではなかった』に違いありません」
「烏丸さん、その疑念を口に出したことは今回が初めてでしょう」
そんな彼女に自然と暖かく声をかけれて良かった。
「え、っはい、そういえば確かにそうですね」
予想以上に最高の答えに、こちらも破顔一笑。
「そういう在り方が当たり前であることは、貴女が賢明であることの証明なんですよ。素晴らしい人格です。たとえその気がなかったとしても疑心にかられて口を開けば、そこを起点としてひどい噂がたつことがあり、その結果、人間をやめているかのような悪が群がってきて状況を破滅的にしてしまうことさえある」
「私の気持ちは、そんなに褒められたわけではなくて……」
「いいえ、誇っていいほどの美的資質です。負の気持ちがいかに大きかろうと覆って溶かしてしまうほどのいわば言動様式。だとしても辛かったでしょう、古代ギリシャのミダス王を童話にて語った『王様の耳はロバの耳』。我らの聖典、新約旧約両聖書に記された知恵ではないモノとはいえ、あの物語は宝玉のごとき叡智を示している。いいですか、よく聞いてくださいね」
こちらを真っ直ぐと見つめ返す瞳、常に良い姿勢が、なおのことシャンと気に満ちる。烏丸さん完璧傾聴モード。
「それこそ、主イエス・キリストの思召しかもしれません。母に対する疑惑を自らの胸のうちにしまい込み、それこそ仙となった貴女は常人では体験しようのないほどの長い長い年月『ロバの耳』と告白することを耐え忍んできた。そして今日この日、自惚れでもありましょうが一人の男として柳生烏丸を支えることのできる私、カトリック仙人天佑が、悩み苦しみ続けていたその胸の痛みを癒す場に居合わせることができた。この心はこの状況こそを『奇跡』と判断する」
目の前の可愛らしい顔が色づく花のように紅潮していく。麗しい美しい。偽りなどあるはずもない言葉をつづけよう。
「昨今の定義はともかくとして、科学的な非実現性は個人的にその要件にはあたらないと判断してます。人を幸福に導く偶然こそが、ソレに値すると信じたい、私たちが想い合えた今こそが『奇跡』だと」
そして彼女の背中にユックリと手をかけ、そっと柔らかに抱きしめる。
僅かな強張りがユルユルと緩んでいく。
2、3分の沈黙、暖かい体温を互いに感じあう。
「ここが1番大事なことなんですよ。決めつけるような物言いになってしまっていたら即座に否定してください。貴女の母と父は、貴女に対して暴力的でしたか」
間を置いて首を振る彼女。
「嫌がらせなどはうけましたか、側にいると酷く居心地が悪かったとかは」
「ありません」
きっぱりと。
「では母自身、父自身は貴女にとって心地よい存在でしたか」
「そうだったと思います……父に会えたのは数えるほどの機会でしたが、」
答えは明確、涙にぬれてそうな声でも、その響きはハッキリとしている」
「なら大丈夫です、我が眼前の女人は自らの感覚をもって両親の親愛を信じて構わないでしょう。 貴女は沈黙の行を耐え続けることによって、ご両親を守りきったのです。『ローマ兵と』『家の爺さんと』などという卑劣な噂をはねのける美しさによってこそ、我らの信仰対象たるイエス様、マリア様、ヨセフ様の聖家族は輝き続ける。聖母の貞節を信じるかのごとくに貴女の母を信じなさい。キリスト教正教会信徒、武娘仙 柳生烏丸。その『個』においては、それで良い」
そして、どの子どもも両親に深く望んでしまう関係性についても一言。
「それに結果だけみても、貴女が産まれたのですよ。ご両親の『恋』は決して『過ちなどではなかった』に違いありません」