4-6 孫悟空は語り出す 【カトリック仙人天佑視点】

文字数 1,014文字

 ヤマタノオロチの八頭の一人である、右真中という名で呼ばれていた彼。その目が見つめる先には、伝説の存在。

 その仙の姿なるは剛直。人の青年体ほどの大きさ、筋肉は張り裂けんほど盛り上がっており、独裁者の護衛の制服、そんな破れた黒服が破れつつも張りついてる姿の猿仙、孫悟空という名の伝説がそこにはいた。

 そんな彼がこちらにかけた第一声は、たった一言。

「場所を変えるぞい」

 大蛇、その化身の少年が言葉を返す。その声音勇ましく。

「卑怯きわまりない不意打ち、そんな無様さらしてから場を変えようとかさぁ、己自身のことを王様か何かと勘違いしてるのかい」

「そちらこそ、そこらに転がっている、己らの眠らした有象無象を巻き込む気はあるまい。こちらの策であるところの奇襲は失敗に終わった。こうなれば仕切り直しよ。お互い真正面から正々堂々と勝負を決するしかあるまい、こちらもこちらで、そなたらと戦う前にやることがあるでな」

 そう言うと、孫悟空は自らの体毛を一掴み引きちぎり、それをその場に散らした。瞬間、その一毛一毛が温かき光の粒となり、横たわる人々へと降り注ぐ、みるみるのうちに怪我人たちの身体は癒え、苦悶の表情を安らかに変えていった。それは慈愛に満ちた仙術にちがいなく。そんな妙技を息をするかのように成し遂げた彼は、私たちに気軽に声をかける。

「不思議そうな顔をしとるな、いくら狂っているとはいえワシとて仏弟子、ここまでの非道をこのまま放置したりはせぬよ」

 そして最悪の独裁者に近づいていき、その腹に癒着した赤子の身体を、まるで湿布薬のように引き剥がし抱きかかえた。傷一つ出血の一滴さえ許さない完全な治療、一瞬のうちにその子の将来をとりもどした孫悟空。

 どんどん地獄だった場所の闇が祓われていく。
 この場所の人間から剥がれ落ちてかけていた、人間性がみるみるうちに回復していく。

「言い訳しとくぞ。たぶんオマエらは老君あたりから遣わされた奴らじゃろ、ここいらの一神を祀る宮場所を破壊していたワシは、ワシであってワシではない。といってもそう弁護できるわけでもなかろうがの。じゃがいっておくぞい」

そういうと、どこかくたびれた口調で視線で、我妻 柳生烏丸に向かい、

「そこのサムライ娘よ、オマエの国で一番有名な『猿』がこのワシに取り憑いたのじゃよ」

と、なにやら斉天大聖 孫悟空は語り出したのである。



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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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