4-10 投擲(昔なじみの) カトリック仙人天佑視点

文字数 1,201文字

 また一つクリスチャンの灯火が、この世に増えた。ただ彼 ヤマタノオロチの場合頭が八つあることなので、ちょっと聞きたいことを尋ねてみた。

「あとの七頭の方々はこの展開に承諾してくれるのでしょうか」

「そりゃあどうなるかはわかんないけど、今現在に限っていえは僕が(かしら)、蛇頭をつとめるのに許可をだしていることは確かだね」

 体育遊技場への門をくぐる。気づけば前を歩いていた猿の背中は先ほどよりもかなり大きくなっていた。ヤマタノオロチさんの寸法に合わして、襲いかかってくるんだろうなぁと悩ましげに私が目を伏せた正にその時、この耳に、烏丸さんの一方的な戦闘開始宣言が届いた。

「先手失礼!」

 鋼の輪。そんなモノがまるで流星のごとき威容をもって、巨大になりつつあった孫悟空の頭に翔んでいき、振り向いたその額に真正面から打ちあったった。頭蓋が潰れたような音が響き渡り、のたうちまわる大猿。

「卑怯とは思えど、天界で暴れまくった斉天大聖相手に、こちらが地力で勝てるとも思えず、機を見て、老君の金剛琢(こんごうたく)を使用させてもらいました。これをもって開戦の合図とさせていただく!」

「こちらが地力で負けてるなんて、ようも言うたな。こちらの面子をつぶしおって、烏丸よい、ならばあっという間にこの猿を絞め殺して、余りあった余力で、その女体をを嬲りつくしてくれようか」

 口調が違う。右真中のさんで間違いはないのだろうが、だいぶ恐ろしい一面が滲み出てきたらしい。瞳孔が縦に切れている表情は凶悪そのもの。

「非難は覚悟の上、とはいえこの肉体を汝の好きにはさせるわけにはいけないな」

「良いわ、良いわ、良人に頼ろうとしない精悍な面構え免じて、とろかしつくすはマタの機会じゃ。いまは大陸でもまたとない大仙を餌食として味わうとするかのう、天佑殿、そなた女房の不始末あとで愚痴を聞いてもらうぞ、とりあえず洗礼とやらじゃ、これなる蛇体とて同士と認めておくれ」

 洗礼。普遍的に承認されているカトリック第二のサクラメント。

「私は神父ではないででこれは仮初めのものですが」

 懐の水筒にいつもいれている聖水を、禍々しい響きを清めるように、荒ぶる声の方へと振りかけながら、唱える。主を想う。

「善悪を理解することのできる知恵を、主が汝に齎したもう。糾弾すべき存在を見定める者よ、御心に従うが良い。信徒、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)。授ける使命、与えしクリスチャンネームを、いまここに! 行きませい! 汝が名は、ソロモン!!!」

 地の底から沸き上るがごとく、八頭の大蛇が現れ、頭部への衝撃からいまだ態勢を立て直していない大猿の手足胴体に絡みついた。ついさっきまで近くにいたはずの「右真中の」さんの人型なる姿は、もう見えない。いまいる競技場からはみ出さんがばかりに巨大化した獣同士が身を震わせている。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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