2-15 うんうん、そういう風にもってくわけね【てんゆう、お話を続ける】

文字数 1,249文字

「勝手な思いこみを、よくもまぁここまで。想像力が豊かなことで」

「ぐらつかないんだね、カトリック仙人もその従者たちも。一人だけ深刻そうにしてるのが想い人っていうのがまた、恋の深さを物語っているというか、その心配は豊かな情で満ちている。愛されてるねぇ君」

 あっくそ、こちらを攻めてきたか。さきほどの戦闘の最中、敵の指摘で自覚させられた烏丸さんとの間の想い。もうちょっと互いの気持ちを丁寧に確認していく過程を楽しみたかったなぁ、というか。

「こちらの武娘仙(ウーニャンせん)が元気ないのは貴方(あなた) の片割れが、暴れに暴れたせいだと思いますよ。『右端の』さんを反省させといてくださいね」
 
 おかげで彼女と目を合わせるたびに、共に赤面、すぐ視線を逸らしてしまう。

「照れてる照れてる。それはそうとして『右端の』は、先ほどの様子からもわかりやすいよね。()きだしというか、男性の欲望が強く顕現(けんげん)している」

「まったく袖にするほうの立場にもなってもらいたい。しょせん蛇、真の姿は手足無しなのだから腕の一本でも断ち斬れれば……」

 ああ我が想い人、会話に参加したかったんだな。威勢の良いことを魅せようと頑張りすぎてる。声震えてるし。

「さすが女剣士、言うことが勇ましい、ほれぼれしちゃう、たぎるなぁ。……続けるよ。そして『右真中の』の僕、我が司るのはなにかというと女性の欲望なんだよ、もちろん端も真中も他の蛇頭も、僕らはどこまでいっても男の化身、女の欲とはいっても『男の期待する』っていう但し書きつきだし、この肉体においては『女欲を満たそうとする欲』で具現するわけだけどね」

 ほら速攻で反撃くらって真っ赤っか、助け舟 助け舟。あとこちらからも威圧もこめて一言、声を低めて。

「……何が言いたいんですかね」

「あは、いいね。不機嫌そうにこちらを睨む視線、実に男らしいよ。だから君にも理解できるはずだよ、僕らが期待して女性のうちに確かにあるはずの泥ついた欲を」

「くだらない女性蔑視に連なるような見解なら、聞く価値など微塵(みじん)もありませんが」

「バカなバカな、蔑視どころかそれこそ尊崇(そんすう)に近い感情で、女の欲は肯定すべきじゃないか。男性中心論者こそが生命の根源たつ性欲さえも『男』で独占しようとした。そんな愚行には冷たい憐憫(れんびん)しかわかないよ。そして君の母親こそ、金の力で牛魔王を繋ぎとめていた玉面公主こそが、今の世でいう先進性をもち本来的には本質的だ。正直なのはいいことだよね」

 あ、わかった。こちらの大事な想いに笑顔で泥を塗りたくる気だな、こいつ。
 
「イブは知恵の実を食べてから、恥じらいを覚えたというね。それは己の欲を自覚したから、とも解釈できる。かの甘言に耳を貸したがゆえに。あははぁ『蛇』ってなんの象徴なんだろうねぇ」

 ……こいつ。けっきょくのところ『右端の』も『右真中も』も同じ八岐大蛇(ヤマタノオロチ)ということか。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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