2-9 えええええ、内心とか願望とか言いだしたよ【てんゆう、決めつけられる】

文字数 1,315文字

聊斎志異の『画皮』という話

 概略は『私は(いじ)めにあってる金持ちの(めかけ)』と訴える女に同情をしてしまい騙され、鋭い爪で腹を裂かれ心臓をつかみ出された男の話。殺害した妖怪は文字通り、美人の皮を被っており、本当の顔は青く(のこぎり)のような歯が()きだしであったという。

 そういう背景があった中華妖怪。うちの画皮本人は、このような存在原理に苦しんでおり、救いを求めてカトリックへと回心してくれた。このようにキリスト教は救いと(ゆる)しを与えたもう。

 与えられしクリスチャンネームはマリア。この名づけに関しては聖母様の名を示しているのではない。

 マリヤ・マグダレナ、またの名をマグダラのマリア。
 復活したイエス様がまず会ったのが彼女である。
 カトリックの伝統的な解釈では『悔悛(かいしゅん)した罪深い女』でもある。

『するとそのとき、その町で罪の女であったものが、パリサイ人の家で食卓に着いておられることを聞いて、香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、泣きながら、イエスのうしろでその足もとに寄り、まず涙でイエスの足をぬらし、自分の髪でぬぐい、そして、その足に接吻して、香油を塗った。』

《ルカによる福音書 7 37-38》

 そもそも『マリア』というのは紀元ごろ当時よくあった名前らしくマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ、四福音書だけでも《聖母マリア》《マグダラのマリア》《ベタニアのマリア》《ヤコブの母マリア》《クロパの妻マリア》と五人の女性が確認できるのである。



「……というわけで、うちのマリアさんは特に聖母様を意識しての名づけではないのですが」


 というこちらの言葉に、気まずそうな様子を見せた後、さらに声をはりあげるたのが蛇男。ボロボロの腕の状態も手伝って、心持ち可哀想な人にも見えるよな。

「はっ、色目人(しきもくじん)たちの宗教の常識など知らぬわ!。そのように誤魔化したところで、お前の内心には母という存在への願望が根づいているに違いない!!」

 うわぁ……いうに事欠いて『内心』とか『願望』とか言いだしちゃったよ。
 突っ込みどころ満載だ、なので間髪いれずに論破してみる。

「深層心理を扱う学問は、臨床か弁護に活かす形でないと土台から成り立たないのですが。どちらのせよ腹を割った会話を繰り返すことを前提に組まれた体系ですし。私とアナタが、どれだけお話し合いをしましたっけ?。あと『内心』と『願望』の言葉の示す範囲の定義はできてますか。どのようにも解釈できる単語をつかって有効な分析ができるわきゃないでしょ。あと細かいことを言うようですが、中華本土で言うところの色目人とは大多数イスラム系の定住民でして、キリスト教徒がいないわけではないのですけどごく少数にすぎず、」

「ええい、黙れ!。つまらん、そんな話はつまらんぞぉ!!」

 聞きたくない話は耳に入らない、おじいちゃんみたいだ。そりゃ古い歴史をもつ国の神話存在なのだから、ものすごいご高齢だよな。などとこの頭脳、これほど自然に呑気(のんき)なことを考えられるようだから、当面の危険は去ったのかもしれない。

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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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