4-11 化物同士 カトリック仙人天佑視点
文字数 1,448文字
ついに両雄が激突した。こちらの味方は極東の大妖ヤマタノオロチ、あちらは東方の独裁者豊臣秀吉に魂を汚された斉天大聖孫悟空。
「またソロモンとは。なかなか珍しいクリスチャンネームでありますな。天佑殿」
妻のつぶやきには即反応する我が身の可愛さ、なさけない……はて、本当にそうだろうか?
「イスラム圏では、そう珍しくはないと思うのですがね、スレイマーンという響きで名前の読みは異なってはいますが」
「最初の一撃、老君いわくの鉄の輪は、卑怯な一手だったとは思いますが、こちらとて万が一にも負けるわけにはいけない一戦であるので。それにしたって呆気ない幕切れだったかも知れませんね。斉天大聖を完全にその蛇体で捕縛できたようで」
「そうですね。さすが歴史長き国の大魔妖怪、これは想像以上の『力』ですね」
このまま時を十分すごす間も無く、締めあげて大猿 孫悟空の肉体を潰してしまいそうな……身体の損傷が酷くなり限度を超えると、その中身たる仙も戻るべきところに戻るだろう。とりついた豊臣秀吉という向こうの独裁者の怨念執念も霧散してしまうだろうな。と安心しかけていた、そんな考えを止める言葉が届いた。緊迫感のあるいつもと違う口調で、かなりしわがれた声での『右真中の』のヤマタノオロチの訴えが、この耳に。
「天佑殿よ、我ら八頭なる大蛇の剛力を信頼してくれるのは嬉しいが、こちらは大猿の肢体を引き千切る気で締め上げておる。だというのに血の一雫さえ滲むほどさえ傷つけることができぬ、とは。さすが中華大陸の伝説は格が違う。素直にそう感じいってるところよ」
まさか。仙同士の術の掛け合いは、たがいに不得意な存在へと変化するが定石。余裕があるのに緊迫されたままなわけが……。
「化けて逃げると思うてか、カトリック仙人よ。大蛇の化物を相手にして、ひたすらに敵の苦手に化けることを繰り返す、千変万化なる仙同士の戯れをする気にもなれんでの、この場で許される限りの巨身猛々しい大猿になることにより勝負をつけてしまおうと思う、そちらの助太刀の大蛇殿、さぁさぁお互いの巨躯をもってしての力を比べといこうかなぁ」
「ぐげ、このままでは、この身たる蛇体、が、は、弾けてしまう。ぐ、うげぇ」
ちょうど喉元あたりに絡みついていた、蛇頭がその口より、孫悟空の両目に向かって、溶けた鉄のような体液をブチまけた。大猿の顔から黒々とした煙が立ち上る。絶叫、その一瞬の隙をみて、八つの絡まった蛇体は自ら、その呪縛じみた締め上げから猿体を解放した瞬間、八つの鎌首あげて斉天大聖の首、両脇両二の腕、ヘソ、両太ももに、噛みついて……何かを注入?したのか。毒液だろうか。
「ぐぎゃわぁ、いた、いた、痛、痛痛、この島国の口縄 風情が、金丹仙桃で潤したる我が肉体にいらぬ汚れを。そうか、オレに伝説たる武具、如意棒をつかって頭を潰してほしいと、そう言ってるんだな、極東神話の化物めが」
「たはは、その身体に蛇体を絡めることさえできたら締め上げるだけで勝負は決まると、そんな過信を抱いた己が情けなくなるね。まさか、こちらの方がバラバラに引き裂かれかけるとは、だがそちらの消耗とて甚大に違いあるまい」
睨み合う、八頭大蛇と大猿。まさに最近の言葉で言えば怪獣、そんな両者のこの威容。
その緊迫した場の雰囲気を台無しにする、じいさん声が、我妻烏丸の口から発せらるとは、なんの喜劇か。
『ちょいと口と身体を借りるぞぃ烏丸、よっ石猿、久しぶりじゃのうっ』
太上老君が声のみ、この場に現界したのだった。
「またソロモンとは。なかなか珍しいクリスチャンネームでありますな。天佑殿」
妻のつぶやきには即反応する我が身の可愛さ、なさけない……はて、本当にそうだろうか?
「イスラム圏では、そう珍しくはないと思うのですがね、スレイマーンという響きで名前の読みは異なってはいますが」
「最初の一撃、老君いわくの鉄の輪は、卑怯な一手だったとは思いますが、こちらとて万が一にも負けるわけにはいけない一戦であるので。それにしたって呆気ない幕切れだったかも知れませんね。斉天大聖を完全にその蛇体で捕縛できたようで」
「そうですね。さすが歴史長き国の大魔妖怪、これは想像以上の『力』ですね」
このまま時を十分すごす間も無く、締めあげて大猿 孫悟空の肉体を潰してしまいそうな……身体の損傷が酷くなり限度を超えると、その中身たる仙も戻るべきところに戻るだろう。とりついた豊臣秀吉という向こうの独裁者の怨念執念も霧散してしまうだろうな。と安心しかけていた、そんな考えを止める言葉が届いた。緊迫感のあるいつもと違う口調で、かなりしわがれた声での『右真中の』のヤマタノオロチの訴えが、この耳に。
「天佑殿よ、我ら八頭なる大蛇の剛力を信頼してくれるのは嬉しいが、こちらは大猿の肢体を引き千切る気で締め上げておる。だというのに血の一雫さえ滲むほどさえ傷つけることができぬ、とは。さすが中華大陸の伝説は格が違う。素直にそう感じいってるところよ」
まさか。仙同士の術の掛け合いは、たがいに不得意な存在へと変化するが定石。余裕があるのに緊迫されたままなわけが……。
「化けて逃げると思うてか、カトリック仙人よ。大蛇の化物を相手にして、ひたすらに敵の苦手に化けることを繰り返す、千変万化なる仙同士の戯れをする気にもなれんでの、この場で許される限りの巨身猛々しい大猿になることにより勝負をつけてしまおうと思う、そちらの助太刀の大蛇殿、さぁさぁお互いの巨躯をもってしての力を比べといこうかなぁ」
「ぐげ、このままでは、この身たる蛇体、が、は、弾けてしまう。ぐ、うげぇ」
ちょうど喉元あたりに絡みついていた、蛇頭がその口より、孫悟空の両目に向かって、溶けた鉄のような体液をブチまけた。大猿の顔から黒々とした煙が立ち上る。絶叫、その一瞬の隙をみて、八つの絡まった蛇体は自ら、その呪縛じみた締め上げから猿体を解放した瞬間、八つの鎌首あげて斉天大聖の首、両脇両二の腕、ヘソ、両太ももに、噛みついて……何かを注入?したのか。毒液だろうか。
「ぐぎゃわぁ、いた、いた、痛、痛痛、この島国の
「たはは、その身体に蛇体を絡めることさえできたら締め上げるだけで勝負は決まると、そんな過信を抱いた己が情けなくなるね。まさか、こちらの方がバラバラに引き裂かれかけるとは、だがそちらの消耗とて甚大に違いあるまい」
睨み合う、八頭大蛇と大猿。まさに最近の言葉で言えば怪獣、そんな両者のこの威容。
その緊迫した場の雰囲気を台無しにする、じいさん声が、我妻烏丸の口から発せらるとは、なんの喜劇か。
『ちょいと口と身体を借りるぞぃ烏丸、よっ石猿、久しぶりじゃのうっ』
太上老君が声のみ、この場に現界したのだった。