2-7 えんえんと地味な作業を繰り返すも勝利の道【てんゆう、術る】

文字数 1,138文字

 にしても、これなるヤマタノオロチの化身、さきほど『欲望を否定しがちなお前らの信仰』と(さえず)っていたが、こちらの事情を知りえているようだな。どこまで把握されているのか、大聖 孫悟空と闘わされるかもしれぬことまで、存知(ぞんじ)ていようか?

 とりあえず人の身は仮の姿であろうから、腕の一本や二本断ち斬ったとこで大事があるとも思えない。なにしろ相手は極大の妖魔(デーモン)、仮に彼の命を絶とうしたとしても、我ら二人の実力では到底足りない。

 カトリック信徒であり仙人でもあることが、どれだけの可能性を秘めていようと、この身の非才は覆らぬし、想い人のほうも正直、中華ではない武技にて陰陽の極みに辿り着けるとも思えなかった。

 ゆえに全力全開、相手を叩き潰すつもりで襲いかかって、やっとのこと話し合いの ∵ (テーブル)につけると判断するのが妥当、日本という国の最大最悪の怪異なのだから、そのくらいの規模を想定してしかるべき。

 というわけで私今できることは、ひたすらに敵の妨害、妨害、妨害。
 柳生烏丸の振るう刀を避ける動きを邪魔をする、彼女に向ける拳がその肉体に届くのを妨げる。

 剣術が四肢の腱をズタズタにしようと、蛇の攻撃が剣士の顔面を破壊しようと、
 斬る、よける、殴る、さける、刃を返す、肘をあてにいく、攻めもそれを凌ぐ動きも止まらない
 
 そんな超速の立ち回りの周囲を、カトリック仙人と姑獲鳥アンナで飛び回りつつ、

 平衡感覚を狂わす、視覚を濁らせる、点穴に鋭い痛みを生じさせる。
 我が為すのは、感覚器に作用する詐術、認識を阻害する幻術、その類いの仙術揃(せんじゅつそろ)い踏み。

 もっと直接的には、敵の目に砂つぶ、足元に瓦礫(がれき)
 戦いにとって致命傷(ちめいしょう)になりうる、えげつない状況を相手に。

 ヤマタノオロチの化身は肝臓への衝撃をもって烏丸さんを叩き伏せようとしたが、我が術によって一瞬だけ生じた白内障と体軸のズレによってその左拳は届かず、その隙に彼女の煌めく白刃が、敵の右肩口を通った。

 届いた一撃、だが浅い。なにごともなかったかのように距離をとられる。

「小賢しいが見事ではあるよ、我が肉を締めていなかったら首ごと逝ってたかも……な」

『語尾になにか剣呑な響きがある』と感じとれた瞬間、
大量の怒気とも殺気ともつかぬモノが、彼の全身から発せられた。

「怪物のやり方を魅せてやろう!」

 なんていうかデタラメだった
 その拳が地面を殴ったら、文字通りに地が砕けるなんて

 足元が崩れたのだから、烏丸さんの身体は倒れそうになる
 そのどこか可憐な姿に、蛇なる凶賊が覆いかぶさってくるのは耐えがたかった
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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