4-7 孫悟空は語る 【カトリック仙人天佑視点】

文字数 1,097文字

「わが国で、有名な猿?、いや私の国にそこまで名の売れた妖猿なぞは……」

「わしらみたいな空想に根づいた者ではなく、実在した人間じゃよ。いたじゃろ『猿』と呼ばれ続けて、日本の王ともいえるほどの地位に登りつめた男が、」

 ん、おやおや。となりの妻の気が膨れ上がるようすが、まるで見てとれるように、


「ああ、なんということか、徳川に縁ありし柳生の私がこの場に居合わせるのは、なんという偶然。いや必然といえるのだろうか。あの『猿』と呼ばれた英雄に、斉天大聖 孫悟空、その御身は取り憑かれてしまったと」

 どうやら烏丸さんは、悟空の魂に取り憑いた人物を特定できたようだ。私にはまだ、なにがなにやら分からない。ただ彼女の反応をみる限りには、烏丸さんが常人であったころの時代に活躍した人物ということは間違いなさそうなのだが、

「日本のことに詳しいつもりでいて、ここまで言っても感づかんか。よもや知らんことはなかろうが。豊臣秀吉。これまた英雄に織田信長に『サル』『さる』『猿』と呼ばれ続けて、ついには織田の大将の国づくりを引き継ぎ、頂点に立った男がいたじゃろが」

 その名前まで知らされて、ようやっと私の中でも人物特定ができた。関白 豊臣秀吉。


「庶民、地から生えてきたよな英雄、そいつ豊臣秀吉は、日本人を奴隷として海外に売り払ったキリスト教たちに対して……まぁその言葉を汚して良ければ、がちでブチ切れておったでの」

また私は、過去我が教団も関わったに違いない罪を目の前に晒される。大航海時代のキリスト教徒による奴隷貿易。そう誰が尊い『白』を肌の色に重ねてしまったのか。

「それとワシはどうしても天竺インドから仏教を駆逐したイスラムに対して、恨みを消せなかった。恨んではいかん恨んではいかんと思えば思うほど、な。諸行無常は仏教でいうとことの基礎基本。しょせんワシは如来の心地など手にはできぬ石猿にすぎぬと、完膚なきまでまでに思い知った」

 イスラムは同じく唯一神を共にする啓典の民、ユダヤ教徒とキリスト教徒にはまだ優しいが、仏教には容赦ないであろうしなぁ。その無念、お気持ちは察する。

「戦国時代のキリスト教徒キリシタンによる海外奴隷貿易、それに対する豊臣秀吉の憎悪、インドの仏教にトドメを刺したイスラム教、その運命に憐憫をよせる仏弟子 孫悟空。この二つの存在が、世界のどこか何かの弾みで混じり合った。そういうわけで日本で一番名のうれた『猿』。若い頃からサルさると呼ばれていた男の妄執が、中華世界一有名な『猿仙』ワシの心の一番弱いところに巣食うてしもうたんじゃな」      
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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