4-8 孫悟空は語り終えつつある 【カトリック仙人天佑視点】

文字数 1,266文字

 目の前の斉天大聖 孫悟空ではあるが、たしかに魂の奥に悪霊にとりつかれてるのが良くわかる。下界のテレビとやらのノイズのごとくに、逞しかったであろう四肢をかかえた小さな老人の姿が霞めてみえるよな……、たしかに戦乱期の日本のなにやらが漂ってくる。

「おう、良い仙じゃ。我が身に巣食う(うみ)を取り除くことに手をかしてもらいたい。ぜひともこの内にやどりし悪霊を退治してもらいたく思っておっての。手を抜けるわけではないが、どうしても戦いを求めつつ勝利を願いつつ、このまま完全な悪鬼になるのも耐えがたい。いまは老猿としての我が表に出てくるが、若い頃の『オレ』と秀吉が同調したら、全力全開でそちらに襲いかかることになる。さきほどの一撃もそれであったが、それを防ぐとは、とんでもない妖魔を引き連れてきたものよ」

 そんな猿仙からの感心した眼差しうけた、大蛇身と繋がった少年の姿のヤマタノオロチの現し身は、相手を小馬鹿にしたような返事。

「お褒めいただきどーも、長々した口上の要点も理解いたしました、わかったよぉ、やらかしたことは自分が本当に望んでることではないって、ただの言い訳だよな、別にそこは構わないがな、だがこちらの仙人どもは心象を汚されるぐらいのゲスな光景を見せられたわけですが、まさかこのクソみたいな宴会の音頭を取ってたわけじゃないよな、斉天大聖さんよぉ」

「そこまで見損なってくれるなよ、日本の蛇妖。いずれは全てを我が仙術で犠牲者たちを癒そうと思ってはいたわい。護衛の一人に扮した姿でワシとしては、このような醜悪が宴を止める機会を伺っておったよ。だが、お前の言うようにいずれ来る刺客たちへの罠として機能することになってしまった、その期待がありじっさいその機会がきてしまった。策ともいえない偶然のコレが失敗して始めて、あるべき歯止めが壊れていたことがようやく自覚できたわい。すこし自分自身に絶望しとる。すべてをこの胸に巣食う日本人 《リーベンレン》のせいにできるわけもないからな」


「元に戻せるからといって、この場におこる地獄を看過した。そのことに違いはありませんね」

 私は、歪みつつある斉天大聖 孫悟空はこのことだけは、はっきり聞いておかなければならないと思った。

「まとめてしまえば、そうなってしまうわなぁ。無論、最後に助けるとはいえ弱い者が傷つけられる場を放置したことは、菩薩行としては失格、恥ずかしくて玄奘様の弟子とは名乗るに、ふさわしき者ではなくなってしまったかもしれぬの。だから、もうこの身体は豊臣秀吉という男に奪われる、ワシはこの体のうち魂はかの侵略者に変わってしまう。ワシはワシへの信仰想像が集まる場所へと引かれつつある、に戻るだけとはいえ、ここに残留する『オレ』と『秀吉』の後始末を頼むわい」

「わかりました、我らカトリック仙人一党渾身の力を持て、この場に残る貴方の残留物、堕ちた秀吉と悟空、その癒着した姿はもはやモノノ怪とかわらない。妖怪退治うけたまわりました。それでは、場所変えましょうか」
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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