2-10 え、こんな話題。烏丸さんにはキツイだろ【てんゆう、心配する】

文字数 1,332文字

「もうやめときなよ『右端』の」

 いきなり洞窟内に響いた凛とした声。少年のものとするにも幾分高めのソレに合わしたかのように、新たに洞窟の奥から現れた人の姿。中性的、どころか女性と見紛うほどの嫋やか。それでいて確実に男であることがなぜだか理解できる、立ち昇るような雰囲気に満ちた人型。

「彼が益荒男であることは、もう十分に確認できただろ。そしてそこの彼女だって魂はそう評されても構わないほどに勇気に溢れている、って判断も可能だ。もう大人しくしろよ」

「出てくるのが早いわい『右真中の』。久々に存分に身体を動かせるのだから少しくらいは大目にみよ」

 カトリック仙人こと天佑。そして日本刀術武娘仙こと柳生烏丸。我ら二人とも、どうやらなんらかの資格があるかどうかを試されていたようだ。それにしても『右端の』『右真中の』のと呼び合うあたり彼らは二体ともに八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の化身であるのか。八つの頭一つ一つに人の形の現し身がいるということなのだろうな。

「もうちょっとじゃったんじゃよ。それこそ輝かしい女子(おなご)と共に逢瀬を楽しめる、もうちょっとのとこまで」

「僕らがわかり会えないのは宿命みたいなものだけど、ホント反吐(へど)がでそうな思考だよね。明らかに他の男性に想いをよせてる女性に対してのこの行動、その酷さを自覚できないなんて、事前の同意をここまで軽くみる……じつに醜悪(しゅうあく)だよ」

 同等の存在ともいえる存在に、嫌悪の視線を向ける一見少女姿(いっけんしょうじょすがた)の新たな大蛇の人型は、和装礼服(紋付袴(もんつきはかま)というのだっけ?)を見事にきこなしている。身体を動かすたびに後ろに束ねている長髪がぴょこぴょこ馬の尾っぽのように跳ねる、そんな様子が可愛く感じてしまう(おのれ)の気持ちに少し戸惑う。

「そう堅いことをいうもんではないぞ、潤いのない生涯なんてのは」

「どうしようもないね、その考え方。男性こそが奉仕種族であるべきなのに、真逆の在り方の一頭が『二つ隣』だなんてさ。そのくせ僕の次に色事がうまいときた、その事実からも『世界』に救済が必要なことは明らかだ。ホント君からはどこまでも遠ざかりたい、この身が左端なら良かったのに」

「ちょっと女を乱暴に扱おうとしたことぐらいで……そんな風にいうなでないよ」

「いうに事欠いて『ことぐらいで』ときたかい!、『ことぐらいで』と!!」

「だからなにをそんなに怒ってるんじゃあ?、お前のいうとおりエロいことは(われ)も得意なのだからさ、事の終わりには女としての満足を確実に」

「妄想でなく、たとえそう成し得るとしても、それがどれだけ女性の誇りを傷つけるか、まっとうな幸福を損なうか、君には理解できないんだろうね」

 いきなり始まった会話を聞くことしかできず身の置き場に困っている私たちを、まりで無視しているかのような蛇化身二体。それにしても過激な話題ではあるよな。烏丸さんの方を見てみると警戒を保ちつつも、顔を真っ赤っかにして気まずそうに俯いていた。

 ああやっぱり彼女、こっち系の免疫はなしか。
 こちらとしては嬉しいようでもあり、とても心配でたまらない。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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