2-22 あーぃ、好きな人が凄い女かぁ【てんゆう、《ナニカに》いつか気づく】

文字数 1,205文字

「別に似ているからといって、そのこと自体がどうこういうわけじゃない。柳生や烏丸の先祖、その血にスサノオが混じってるなんてことを言うことはないから安心したまえよ。だってそんなことはさぁ、……ぶっちゃけ、ありえないからね」

「思わせぶりなことを言って。こちらを混乱させることが目的ですか」

「別にぃ、君たちの今回この物語では回収されない『伏線』を語ってる、そう言う風に例えることができるかな。自慢にしかならないが、八首の大蛇ヤマタノオロチは君たちが今想像しているよりも、ずっと位階の高い場所にいる。もう外側に近い『読める』立場だ。そう表することができるほどに、我と我らは古い蛇神であって太源は既に近くにある。ぜひとも、いつか君たちの上司とも語りあいたいねぇ」

 私たちの上司?。この蛇は老君のことを言っているのか、と思考した瞬間、烏丸さんの眼に青白い炎のごとき光が灯る。その輝きの奥から、何か底知れぬ力が湧き出てくるような……。

「うわっ、やば。ああ、これ以上よけいなことは喋らない、しゃべらないって、誓う」

 ヤマタノオロチ『右真中の』氏が中空に向かって弁明すると同時に、その瞳から凄絶な(あお)が搔き消えた、我が腕の中の武娘仙。彼女は意識を失った。

「ああ、やっぱり仕込まれていたか。たぶん本人は知らされてないよな色々。ただ『耳』の役割を任されたくらいにしか自覚がないだろうねぇ、天佑くんの想い人は」

 無論、『烏丸さんを通して太上老君の所へと旅の情報が流れているかもしれない』、そこまでは十二分に想定の範囲内であったのだが、これはいったい?

「大物になるかもねぇ、彼女。下手をすると我と我ら以上の『大身』に昇りつめたりしてね。そのことも興味深いし、協力するっていったろ、君たちと一緒に旅する。片腕をお出し」

 なんとなしに腕を見て左のほうを差し出して、前方に視線をやれば白い身体と赤い目の子蛇がいた。尾の先は透けて透明になっている。

「では巻きつくからね、生きた腕輪のようなモノになるということだ。君が一人になりたいときは意識を止めるし、それでも足りなければ人型に変じて場所を移すので安心したまえ」

 這い上がってくる小さな蛇体、身構えたのは不快感に用心してのことだったが、その肌ざわりは更紗更紗(サラサラ)としていて、むしろとても心地よいものだった。とりあえず使命の一段階は越したとみてよいだろう、未だキリスト教へと回心に導くことはできていないが、大蛇妖 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と協力体制をとれる関係を築けたのだから。

「では少し眠るよ、我と我らは封じられてるがゆえ、とかく休みたくてしょうがない。では若人よ、長らえたまえ。死から遠ざかり続けることこそが全ての愛欲の(よすが)と知れ」
 
 そうなにやら意味深なことを囁いて、左腕に絡みついた異形は静謐へと落ち着いた。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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