2-12 うぇ個人情報守れないじゃないかな、これ【てんゆう、お話を聞いている】

文字数 1,374文字

 多分ヤマタノオロチという蛇妖魔(スネークデーモン)の有様に、八体の人型をとる化身が寄り集まるという事柄が含まれるのであろう。そしてニ番目に現れた彼は、見事こちらに礼を尽くしてくれた。ならばこちらも誠意を込めて軽やかに礼儀を返したい。

「こちらの仙界の不始末であるのに、図々しくも他国の神格に助力を頼むしかない。そんな非才非力の私をかように丁寧に出迎えてくださって、ありがとうございます。ヤマタノオロチなる化身の一つ『右真中の』様」

 そう粗暴な『右端の』は礼儀正しい方を『右真中の』と呼んだのだ。

「化身の一つ……まあその理解で間違いではないですかね、今は『右真中の』で間違いはないが位置が悠久に固定されている訳でもないといいますか。いずれにせよ、その化身が一頭『右端の』が散々そちらに対して酷い愚行愚言の数々を、申し訳ない。どうか許してくれれば、こちらとしては幸い。とくに女仙であるところの烏丸様、中華女怪のアンナ様マリア様の耳には届けてはいけない酷き暴言は、謝罪を繰り返す他ありません」

 その言葉に答えを返したは、ようやっと落ち着きをとり戻してきた柳生烏丸(やぎゅうからすまる)

「いえ、お気になさらずに。騒動がすんでしまえば、こちらの勇を試すための行為であったと判断できます。なので思い返してもそう不快ではないというか。とはいえ、私が斬りつけた中でも最強に近い相手からの圧倒的な『暴』の気配。流石に肝が冷えました」

「すいません、重ね重ね申し訳ない。我、我らの剥き出しにされた情動こそが今の『右端の』とでも言おうか。『悪いやつではない』とは言えません『悪いやつ』です、文明が優しき嘘で弱き者を守る大系だとしたら、アイツほど救いがない正直者はいない。時代が進むに従って人間社会から隠され否定される側面ではありましょう。かといって完全に切り捨てたつもりでの思い上がり、そんな醜悪な偽善なども、ごめんこうむりたいものですが……はてさて」

 そういって少女と見紛うほどの美しさとひたすらに雄々しい気配を合わせもつヤマタノオロチの一頭なる化身は、カトリック仙人の私と刀術武娘仙 烏丸さん二人の後ろへとその麗しき視線を届かせようと目をやった。ただただ涼やかな眼差しがたち私たちの背後にひかえし女性たちへと流れていく。

「そちらの使い魔は、子さらいと男喰いの業を背負ってますね」

 私の助けがあったとはいえ、自ら尊い信仰の道を選んでくれて召喚に応じてくれる(あやかし)二体。『姑獲鳥』と『画皮』と呼ばれし中華女怪。そんな回心した彼女たちが、主イエス・キリストへと日々祈りを捧げ続けて、浄化しようと試み続ける過去にこびりついた呪い。それを看破した『右真中の』。

 この蛇、千年を超える時をこの地で封じられているだろうに、こちらの妖怪にも詳しいのか。
 こちらのいぶかしげな様子に答えの言葉を繋いでくれる我らの相対者。目は澄んでいた。

「蛇神は近い文化圏の蛇体と心を交わすことができるといいますか、兎にも角にも大陸の蛇怪たち、巴蛇、黒蛇、青蛇、肥遺、鳴蛇……ら、彼ら彼女らと思念を合わして知り得たそちらのお国の妖怪事情です。田舎国の蛇妖ではありますが、蛇怪の中でも八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の格は、アジア上位に置かれているので」
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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