1-5 あぁ、ここまで来たんだ《回想》【やぎゅうからすまる、思い出す】

文字数 1,600文字

 
聖天大聖 孫悟空の分身、そう、その大源たる彼の本体ではない。
天界にて暴れに暴れた大猿王、そんな存在そのものであれば、
一介の武娘仙ごときが、対抗できるはずもない。

だからこそ日本最大規模の妖魔荒神 ヤマタノオロチをもって
かの西遊記に詠われた猿仙を(くだ)すべく
カトリック仙人の師匠とともに、ここ出雲くんだりまでやって来たのだ。


だから今、如意棒を振り回す敵と闘えていることに
どうしても驚きを感じてしまう
劣化した複製、偽物な孫行者であろうとも、
 
あれほどまでの伝説と、剣を合わせて勝負になってる己の腕前
信じられないほどに夢心地、目が覚めないのは現実だから


あの当時では想像もできぬほどに、私は強くなったのだなぁ
 
誰が褒めてくれるわけでもないけど
自分自身一人で、誇りを噛みしめることができるぐらいには



右へ左へ身体を転変させつつ、自らの剣戟への集中が高まるほどに、
命のかかった(たたか)いが激しくなるほどに、
なぜだか……いや、だからこそかもしれない

今、この心は過去これまでの道のり、柳生烏丸の思い出を辿り続けた





私には剣才がなかった。


あの父と血が繋がっているはずなのに、
名乗れない身の上であれども、柳生一族の一人であるはずなのに

女であることを割り引いたとしても、
烏丸(からすまる)という名を与えられた娘の才能の()さ、それは際立っていた

そう、ただ一つ
あきらめが悪いという一点をのぞいては。



長く……長く長く長く、修練を続けてきた。
豊臣が滅び、完全に天下は徳川様(とくがわさま)のものとなる。
 
女仙となったこの身体のままに、
いつまでも江戸の世が続くこと

そんな夢を私は見ていた。



日本各地を転々としながら、たまに長崎の唐人屋敷を訪ね
中華商人に紛れてやってきた、大陸の仙と交流する
他は、買い出しに城下町にいくぐらい

後はずっと修行。修行、修行、修行修行、修行修行修行。


もちろん昔の知り合いなんて(もの)はいなくなって
基本ずっと(ひと)り。

だけど特別に(つら)いことなんてなく

 

色々ありつつも、平和な()(もと)


いつまでたっても、大して上手くならない剣術を
ひたすらに研鑽(けんさん)しつしつ、
飽きもせず探求(たんきゅう)しつしつ、

他になにも望むこともなく、日々を暮らしていく。

 
それだけ、それだけで良かったのに……



幕末の騒乱、
大陸に渡った私、
正教と出会い回心、
 
あの日、八端十字架(はったんじゅうじか)(ことわり)自得(じとく)して
私の剣はいきなり、達人(たつじん)なみの技量(ぎりょう)にまで進歩(しんぽ)をとげた


そんなこんな、これまでの生涯(しょうがい)と比べれば
激動という言葉一つではとても足りないほど、そんな経験の数々



それでも時代は止まらない

待てども待てども、未だに
イイスス様、ハリストスによる救いは地に満ちず



この身が太上老君に仕えることとなった頃
私の故郷 日本は、亜米利加(アメリカ)によって焼かれた

それこそ宗教の自由を謳いつつも
その国がキリスト教国であることは疑えるはずもなく
中心となる宗派は違えど、

そして悪魔そのものの兵器が地獄を産み出した都市の一つは
日本においてキリスト教徒と縁が深い……長崎


どうして、どうして、どうして、どうして……どうして。




そしていま、初めての想い人の助けになるよう

外れ者が辿り着きたる柳生の技
そんな剣を、私は振るっている。






イイスス・ハリストス
(正教においての、イエス・キリストの呼び方)





八端十字架(はったんじゅうじか)

こんな十字架、☦️
(やっ)(はし)がある
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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