2-13 うわぁ、油断ならんなぁ【てんゆう、ためされる】

文字数 1,398文字

 蛇は四肢のないその形態の特殊性があり、人は強い畏怖の感情を抱きやすい。イブを誘惑せし悪を付随させた我ら一神の民にしろ、蛇神として(まつ)る異教の人々としても、かの生物を『特別』とみなしたことには変わりない。そういうわけで目の前のヤマタノオロチなる蛇妖が、多少こちらの認識を飛び越えていたとしても驚くに値しないのだが、ここまで踏み込まれるのも失礼とも思えるので、仲間たちのためにも釘は刺しておくか。

「それで主イエス・キリストの力の頼らねば、癒しがたき彼女らの心の傷に触れてまで、私たちにおっしゃりたいことはなんなのでしょうか」

 子さらいの姑獲鳥と男喰い(食料的に)の画皮。

 中華妖怪としての業を指摘されたことで、アンナとマリアが深く傷ついたというわけではない。伝説に根ざした有様はもはや本人の預かり知らぬ宿命のようなものだし、二人とも(あやかし)基準で妙齢の女性、海千山千、様々な経験を積み、その精神性は大抵の悲しみを包み込んでしまうほどに深く広く、そしてタフだ。

 かといって古い傷痕(きずあと)が痛まないわけではないのだ、相応の理由もなく興味本位の言及であるならば、そんな(やから)を信頼するわけには……。

「こちらの『太母(たいぼ)』イザナミと、そちらの『初めての女』イブのことを想うにあたり、そちらの従者たちの業なかなかに興味深かったゆえにね。どこか符号するような、まるで何かの符丁のような」

 ああ、なにか深いことに触れる気だなと、察することはできた。

「じつに迂遠な物の言いようですね、ではこちらから聞いてしまいましょう。もうご存知なのでしょうが、私たちは道を踏み外した大猿王 聖天大聖 孫悟空を悪事を止めるために強力な助太刀を求めています。そして私カトリック仙人 天佑は、キリスト教に回心した妖魔神仙などを同士として召喚し共に闘うことができ……」

「みなまで言う必要はないよ。『右真中の』の我、先ほどの『右端の』も他の七蛇頭の我々も、我全員(われぜんいん)がキリスト教に想いを寄せてもいいのではないか、というような判断はできている」

 ヤマタノオロチ(『たち』といった方がよいのだろうか?」)は予想以上といえるほどに私たちに対して肯定的な興味を持っているようだった。

「ただしカトリックにしようかどうかは未定だけどね、それとも君の能力はキリスト教の ∵ 普遍(カトリック)を自らに任じるローマに魂を捧げねば効果を保たないのかね、そうでないと『同士』としての約定を満たさないのかい?」

「いいえ、キリスト教の要件を備えている宗派への回心であるなら、同士として共に戦えます。私としてはカトリックを選べてもらえないというのは……とっても残念なのですがね」

 喜んでいいのか残念なのか、複雑な気持ちに囚われそうになる案件ではあるが、とりあえず私の能力はキリスト教の範疇から外れなければ、宗派に関わりなく回心した者と共に戦える。

「なるほどな。君は自らの信条の純粋性にこだわりすぎる性質ではないらしい。一段階目、合格。ぶっちゃけ俗にいう狂信者に該当しないと知れて安心したよ」






ちなみに、右から
八岐大蛇(ヤマタノオロチ)】蛇頭 呼び名


右端の、右端近くの、右中近くの
右真中の、左真中の、
左中近くの、左端近くの、左端の、



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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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