4-13 重なる理由は (カトリック仙人天佑視点)

文字数 1,469文字

「ずいぶんとこたえたようじゃのう、イスラムのモスクやキリスト教会を破壊したことが内臓の疾患のように『孫悟空という存在そのもの』を苛むのじゃろ。もう年寄りぶってないと、安土桃山とかいう日本の時代、部下を大陸まで攻め込ましてきた豊臣秀吉、かの独裁者による侵食が止まらなくなりそうなんじゃろ。自らを『オレ』と呼称するたびに極東で天下をとったいうサル野郎匂いが鼻についてしかたがないとみた」

「私はこのままいなくなる、あとに残りこの大猿の肉体を受けとるのは侵略独裁日本人武将の魂ということですか、ああ忌々しい」

「もう間に合わないとは思うが、すこしでも本来の自分を取り戻して欲しい。石猿なんじゃよ、オマエは。生殖によらず、母の胎にもよらず、ならば肉でありえず。人が憧れし、とびきりの剛力を内に封じた、純粋純然たる幻想。つまりは実在でありえぬが、たしかに『ある』。じつに神格そのものという deity 神格、想いだけが存在の理。ゆえに本源は空、名は悟空。ようは、そういうことだぁな」

 老君の宣告は軽やかではあるが突き刺さるようで

「悟空よい、お前……求めてしまったのだろう、現実過去に根ざした肉を、確固たる歴史に残りし帰着点を。だから戦国を勝ち抜いて日本を独裁した男なんかの怨念に絡みとられてしまったんじゃよ」


 老君に身体を貸している、我が嫁烏丸の表情が少し惚けたと思ったら、本来の美しい女声での質問があがった。

「私なりの言葉で表せていただければ……」

 すこし安心、一時的なものであり太上老君のことは信頼はしているが、しわがれた声で饒舌に話し止まないと不安になる。やはり本来の妻の様子も、うかがわないとな。

「世で言うところの『大猿王 斉天大聖 孫悟空』という存在は、けっきょくのところ『想像力の塊』でしかない。つまりは、そのよう在り様であると、そういうことなのでしょうか」

 すこし間をおいて、またしわがれた声が響く。

「そういう言い方なぁ、おぬしも きついのう烏丸。まぁ確かにそう言えてしまう。猿王という枠、殻といったほうが良かろうか……とにかく、そんな空の入れ物に注ぎ込まれた信仰の名が『斉天大聖 孫悟空』という英雄だという話だな。最近、武娘(うーにゃん)の国で流行った絵物語。その主人公のように心の芯が空というわけではない
 そうではなく、図書館の番人であったというワシの実在を匂わせる歴史。柳生家といったかよ、当主であるお前の父親の若さゆえの過ちから生まれ生きた、烏丸という娘。それらのような、そういう現実とつながる背景をもちえない。そうでありながらも、人びとを奮い立たせる極上の幻想。人を遥かに超え最高存在の絶対権威にさえケンカを売るサル。そりゃあ、憧れをあつめる(オス)であろうさ。見下される者どもの永遠に近い英雄の形なんじゃよ。このヒッパオンは、
 そして豊臣秀吉とやらも日輪の子と自称できるほどの出世階段を駆け上りし男。生まれに頼らずに、戦国の世で己の才と努力により栄光をつかんでもなお蔑称をもって『サル』と呼ばれた男。年老いて暴走が止まらなくなった汚れがあったとしても日本人にとっての偉人であることは変えられぬ事実。そうよ、秀吉という輩も憧れをあつめる(オス)、見下される立場から人生をもってして駆け上がった英雄であった。織田信長という名の大将からは『サル』どころか『ハゲねずみ』呼ばわりされていたそうだがなぁ」


 なるほど中華天界に喧嘩を売った「サル」と、戦国日本で天下をとった「サル」
 斉天大聖 孫悟空と関白 豊臣秀吉。そりゃ混ぜたら馴染むはずである。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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