1-6 あ。そぅきたなら、こうっ!【やぎゅうからすまる、集中する】

文字数 1,179文字



女であろうと仙だとしても
『烏丸』という私、柳生剣戟

劣化しようと複製であれ
『悟空』という敵、如意棒術


師匠に寄せつけぬよう、猿仙の動きを誘導しつつ
(たたか)いは続く。わずかに楽しく命懸()


我が愛刀とヤツの如意棒、打ち合わしてはならない。
できる棒使いは、敵の刀を折りにくる。

日本刀は鉈の重さ、併せ持つは剃刀の斬れ味
つまりその()は、それほどに薄い

側面に良いのをくらったなら
折れるべくして折れてしまうのが武具が(かたな)

ゆえに相手、悟空の撃棒に
体軀(たいく)を遠のけ、刀も(かわ)
この身、柳生の剣戟を重ねていく


『即応を繰り返しているだけ』
といえば、自然動くに任せる体術なので
そうに違いなく、かといって『それだけ』でもなく

どちらにせよ時の感じ方が曖昧になっていく
数合での決着でも、三日続く死闘であろうと
体力の続く限りは、刹那でも永劫でも変わらなくなる


私を包むそんな幻影に亀裂をいれたのは
膠着した戦況を覆す敵の一手

(すさ)まじい速さで、胸元から獣毛を(むし)りとり
分身悟空が成し遂げたのは、さらなる複製の仙を(つく)りあげた


吹きかける息とともに、毛が小悟空がワラワラと量産される


分身が『分身の術』を使うとは!

瞬時、形づくられた小さな暴虐猿(ぼうぎゃくざる)ども
いきなり20、30の数。それ以上の小獣、この身に群がってくる


予想外の事態に、私が面食らっていると判断されたのだろう


分身の分身たるチビ猿たち、そんな彼らを生み出した人間大の獣が
我が想い人、天佑さんに襲いかかる。

止めることなどできない。

私の見てる前で、如意棒の鉄が、師匠の頭蓋を破壊せんと(うな)りをあげる

その威力極まりなき、
刹那の時をも刻む(はや)さなる鉄棒の打ち下ろしは
あの薩摩の示現流さえ霞むほどで


その雷撃に等しき最高技量の一撃を


必要最低限の動きで、ただ半身になるだけで
危なげなく見事ケガ一つなく(かわ)しきる

主も御照覧(ごしょうらん)あれ、カトリック仙人ここにあり!



牛魔王の息子でありクリスチャンでもある、我が師『天佑さん』

そう彼は先ほど『武の修練をそれほどまでには積んでない』と言っただけ
心得がないわけではないのだ、
そんなことは立ち振る舞いを観れば分かる


私ほど技量ではないにしても、
たとえ伝説となりし孫悟空の分身からであろうと、

弟子が闘っている間に、ひたすらに力を貯め続け
後を考えずに一撃を(かわ)すことだけに集中すれば、
それはなせるほどには鍛え上げられている

そして今、天佑さんの傍には
刀術を使える武娘仙(ウーニャンせん)がいる

彼も私も、今は独りではないのだから
……後は任された!
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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