3-1「宗教と国」考(教会にて①)【柳生烏丸 視点】

文字数 1,209文字

 長い、とても長い人生の中で最高に幸福な時間を、愛する男性とともに長崎の地で蕩けるように過ごして……そんな甘い時間から幾日もたたぬうちに、違いすぎる大地へと。柳生烏丸とカトリック仙人 天佑さんは、人々民草がこの世の地獄と向き合わざるえない場所に、戦乱の困難に満ち満ちた、そんな国に私たちは今立っている。

 私は武娘仙こと柳生烏丸。剣術使いでもある。
 目の前にあるのは、根元からポッキリと折られた十字架。ここは朽ちた神の家。
 ついこないだまでは信徒たちの憩いの場所であったはず。

 この土地には今、戦乱が渦巻いている。

 人々が苦しみ喘ぐ地において憩いの場を破壊する暴挙、孫悟空という名の大猿仙のそんな行為を止めるために、私たちは二日ほど前に、この国に着いたところだ。

 この国では大半の民がイスラム教を信仰していた、そして、ついこないだまで平和と豊かさを謳歌していたのに、あれよあれよという間、……まるで、なにか悪魔が手を引いてるかのごとくに、地獄とさほど変わらぬと表現したくなるほどの状況にまでに成り果ててしまった。

 現在は内乱状態であり、たちの悪い独裁政権に対抗する形での反抗勢力は、過激派の様相を帯び、穏健派イスラム教を含めて少数宗教勢に優しさを持っているとは、とても言えない団体。最悪の独裁者しか少数派の庇護者がいないという絶望的状況。さらに近年、カルトでありセクトでもある人の権利を踏みにじる国家を僭称する暴力宗教集団まで暴れ出した。

 おまけにというかトドメにとでもいうか、我ら仙、不思議の境涯なる世界における事件として、最近その存在の揺らぎを心配されていた聖天大聖 孫悟空が、この国における、モスクや教会などの祈りの場を戦乱のドサクサに紛れて破壊し続けるという、混乱の極致と表現できる有様に陥ってる。

 今、目の前に広がる無残極まりない姿を見るにみかねて、首から胸元に下げている木製の八端十字架を外し、祭壇であった場所に置き祈りを捧げた。この形態の十字を選ばない宗派の場であったとしても勘弁してほしい、独りよがりな想いだとしても、この行為を止めることがどうしてもできなかったのだ。

 私たちはすでに、我らの敵 聖天大聖 孫悟空が、変化した上で、どこの隠れているのかは突き止めている。かの猿仙は、どうやらこの土地の独裁者の拠点に身を潜めているらしい。いやもしかしたら、もうすでに独裁者自身は葬り去られていて、いまその彼のように振舞っている化物こそが、私たちの標的かもしれない。

 そうだった場合は最悪だ。キリスト教、イスラム教、双方の憩いの場 祈りの場を破壊し、悪意がすぎるほどに、教徒間の相互不信を煽るどころの話ではなく、この国における災厄の中心に、大猿王は腰を据えているのかもしれない。日本で孫悟空、彼の分身から感じとれた慈愛は私の身勝手な妄想に過ぎなかったのだろうか……?。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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