1-4 ああ、勝たねば。どこを斬り刻もうか【やぎゅうからすまる、闘う】 

文字数 1,835文字

 いかなる行動こそが、キリスト者として相応(ふさわ)しいのか。
 カトリック仙人(せんにん)正教女仙(せいきょうにょせん)、私たちによる行動方針の表明。

 そんな風にもとれるやりとり。(しめ)された心情(しんじょう)
 そんな(とうと)いものを、なぜか……敵側(てきがわ)理解(りかい)したかのように見えたのだ。

 つまりは、こちらを信用したかのような挙動(きょどう)。孫悟空の小さな分身たちは、(あわ)れな犠牲者(ぎせいしゃ)守るような隊列(たいれつ)()き、純粋に我々への防御と攻撃にへと備えを集中させていくような。よくよく観察してみれば倒れた男、出血わりには傷は深くなさそうであり、さきほどからの、暴虐(ぼうぎゃく)をぶつけた相手に慈愛(じあい)手向(たむ)(つづ)けているかのごとき彼らの……なるほどな孫行者(そんぎょうじゃ)()ち果てたのだとしても、結局のところは仏弟子(ぶつでし)だということか。
 
 クリスチャンとしても、(ほとけ)の道の美しさは認めないわけにはいかない。天佑師匠(テンユウししょう)も私も本来はその文化圏(ぶんかけん)なのだから、仏教(ぶっきょう)の良さを理解できない(せん)などがいるはずがないのだ(まぁできるけど、しようしないヤツなどはいそうだが)。

 ちび猿どもの数多(あまた)の目それらの(ひとみ)と少しだけ認識(にんしき)を改めた私の視線が(から)む、やわらかき(じん)ともいえる、そんなナニカを理解しあえたよな感触(かんしょく)。そんな心を胸に感じることができた……そのあとに、それは起こった。

 さきほどの前後とは違って上下に並びだした分身たち。
 また隊列か、と警戒(けいかい)をしたがそれは杞憂(きゆう)
 なぜなら彼らが整然(せいぜん)と並びきった次の瞬間に、多数の小獣が人間大の猿仙(えんせん)一頭へと変化(へんげ)したのだから。

 まさか、いきなり大源(たいげん)顕現(けんげん)するとは!。
 聖天大聖(せいてんたいせい) 孫悟空本人(そんごくうほんにん)と武を(きそ)わねばならぬのか!!

 恐怖と憧れの入り混じった激情(げきじょう)深奥(しんおう)(ふる)えあがる心地(ここち)
 だがどうにも、脅威(きょうい)を前にした風に身体が(とと)のわぬ。

 どうにもオカシイと思い、おちついて敵の『存在そのもの』を(さぐ)ってみれば、ただ分身が(かさ)なって本体(ほんたい)真似(まね)をしているだけ。それだけの現象にすぎなかったようだ。

 良かった、そこまで危機的な状態ではなかったらしい。
 
 だが最悪(さいあく)の展開ではなかったとしても、この形態(けいたい)の分身は多分(たぶん)、いままでと比べ物にならないほどに、こちらの全力をひきだすぐらいには、


 いきなり目の前から消えた(てき)姿(すがた)、……なめるなっ!

 
 天を突き刺すかのごとくに()()げた愛刀(あいとう)
 そして上に向けた視線の先には、
 急降下からの急停止に身を震わす、暴威(ぼうい)()きだした猿王の姿が。

 「ちっ!」

 仕留(しと)そこなった技量(ぎりょう)の低さ、
 舌打ちを止められない心の練磨不足(れんまぶそく)
 いずれにせよ、(おのれ)未熟(みじゅく)さが憎々(にくにく)しい。

 わずかに(はや)すぎたか、飛ぶことのできぬ弱さを(おぎな)うため身につけた、脳天(のうてん)への防御自体(ぼうぎょじたい)必殺(ひっさつ)攻撃(こうげき)とする∵交差法(カウンター)
 もう少しで、田楽(でんがく)のように串刺(くしざ)しにできたものを。

 そして、人間大の(さる)が地上に降りる、一度距離をおいて、
 次に、こちらに真っ直ぐ突っ込んでくる、
 私に襲いかかる、鉄でこの頭を(くだ)きにくる。


 ああ、望むところだ。こちらは、どこを()(きざ)もうか。

 分け身とはいえ聖天大聖(せいてんたいせい) 孫悟空(そんごくう)
 如意棒によって示される武こそは、伝説に(つら)なる妙技(みょうぎ)であろう。
 正面から立ち向かうは、柳生新影流剣法(やぎゅうしんかげりゅうけんぽう)

 『相手にとって不足なし』と思わせて見せようではないか。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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