3-6 「宗教と宗教」考(モスクにて③)【柳生烏丸 視点】

文字数 1,185文字

「……文化的に広がりのあるもの」

「貴女は、広がりのない視点に囚われて『他者』を蔑ろにする人格でないので、そんなに心配はしてないのですけどね」

「ええ、常々異教徒の方々とも仲良くしたい、というか、仙人やっててキリスト者以外を認めないなんて、そんなのやっていけるわけないわけで。でも、なにか最近世に満ちる暴力が過ぎた話を聞くと、そんな決意も揺らぎそうになって」

「それは、この国にも蔓延っている、良くない意味でのカルトであり、セクト、国を立ち上げようとしている暴力集団のことを言っているのですか」

そう密林に覆われたこの国にも、すでに女性の奴隷化を公言してる不埒な男どもが暴れ出して久しい。

「そもそも女性への暴力を繰り返すような輩はイスラムではありません」

「……ですよね」

「やっかいなことは奴らの誤った自称を、真っ当なムスリム(イスラム教徒)ほど否定しづらいという事情がありまして、」

「というと」

 こちらを教導せし想い人の、話の先を促す。

「コーランには、ムスリム(イスラム教徒)は、他人がムスリムかどうか判断してはならない、という規定があるのですよ」

……つまり、奴らがどんなトンデモないことを(のたま)い、
酷い行動したところでイスラム教徒であることを自称してしまえば、

こちらの目を覗き込み、理解のほどを把握した上で、天佑さんはうなづく。

「そう、つまりはマトモなムスリムであればあるほどに、他人に非ムスリムの烙印を押すことなどできない。ということは、あいつらセクト野郎どもが、どんなにイスラムの教えから外れていようとも、まともなムスリムであればあるほどに、彼らを非ムスリムと断定することができなくなってしまう」


それは……過剰な異端審問で酷いことになることを防いでるかもしれないけど、それはそれで大変だろうなぁ。

「ゆえにイスラムにとっての異教徒である、我らが指摘するしかないのです。性暴力を許容するような奴らはムスリムではない、と。女、子どもを無残にあつかうイスラム教徒がいるものか、ってね」

 あ、それは救いのある話かもしれない。イスラム教にとって他教徒、無宗教の者でもムスリムに貢献できる案件だ。手の届かない痒いところに膏薬を、なんて感じの。気おつけないと余計なお世話になるかもしれない恐れはあるとはいえ。そこまで考えの進んだ私の表情を見て、かけられる声、優しいカトリック仙人の笑顔。

「大きな視点に立てば立つほどに、世の初まり創世記において『神はみて、良しとされた』の言葉の確かさが理解できます。神が良しとされた世界において、決して意味意義のないナニカなどありません。我らはその生存と幸せを認めあって、全人類ともに皆、助けあいながら過ごすべきです。……それこそ、約束された審判の日が来るまでね」
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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