2-6 エイヤっ!……と勝つぞと【てんゆう、無抵抗主義を選ばない】

文字数 1,101文字

 なにはともあれ、今すべきことは我らの身の安全を確保すること。そのうえで、この無礼な蛇怪の胸中に天主の恵みを、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)をキリスト教への信仰に導くことこそ我が使命。

 『しかし、わたしはあなたがたに言う。悪人に手向かうな。
もし、だれかがあなたの頬を打つなら、ほかの頬を向けてやりなさい』
《マタイによる福音書 5-39》

 とは聖書の言葉、平和な世を保ち続ける上での最も尊き教えであるが、物事には何事にも限度というものがある。私たちが今、無抵抗を貫けばかなりの確率で、麗しい小柄美女でもある武娘仙 柳生烏丸の貞操が、悪しき蛇によって奪われる。それを看過するのが主の思召しというのは『絶対に違う』であろうから。

『あなたを訴えて、下着を取ろうとする者には、上着をも与えなさい』
《マタイによる福音書 5-40》

 と聖書は続くが、温暖の気候で男が裸にひん剥かれるのと、凶賊の前で女性を危険に晒すのではわけが違う。というわけで命懸けでの抵抗を決行である、慈しみはまず愛する者へ。

『右頬を打たれたら、ほかの頬を』という教えであって『右頰を刺されても、ほかの頬を刺されるのを許せ』とか我らが信仰の書には一言足りとも書いてないのだ。そりゃそうであろう、血が出るほどの暴力や、それに匹敵する以上の苦しみを具現化しようとしているヤツラを止めようともせずに、キリスト教徒を名乗れるものか。

 祈るだけでは足りぬのだろう。
 いや、断固として抵抗の意志を示し続けることこそが、この場での真なる祈りの形!

「出ませい!! クリスチャンネーム=アンナ!」

 これなるヤマタノオロチの化身、ここまで暴を匂わせる存在なら遠慮はいらない。こちらの武をもって話し合いの席につかしてやろう。矛を止めると描いて『武』。純粋まっすぐな綺麗事にすぎなくとも、大いなる理想の申し子たらんと、己が魂を高めるのがキリスト教徒の目指す道であろうよ。

 そんな想いとともに呼び出した者と己の身、その両方を術にて小さく。そして鳥妖アンナの背に、より小型化した私が騎乗する。
 
 言葉を交わさないどころか、もはや目を互いに合わさずとも烏丸さんとは連携ができた。

 彼女は勇ましくも敵に斬りかかり、私を乗せたアンナは、柳生女剣士と敵なる蛇の化身が闘うその周囲を、素早くチョコマカと飛び回る。

 その状況下において、味方の日本刀が男の身体を捉えることができるよう、カトリック仙人による、あらんかぎりの仙術を駆使する心づもりだ。

 とりあえず相手の攻撃意志を挫かないことには、マトモな話し合いは始められない!
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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