3–11 「宗教と宗教」考(モスクにて⑧)【柳生烏丸 視点】(第3章終わり)

文字数 1,409文字

「あらぁ、ひっこんじゃいましたね。あーぁ」

なんだろう。つい声がでたかんじのアンナさん、どこか名残惜しそうな感じなのが訳がわからない。

「アンナ、私はおすすめしないぞ。そこまで大きくない一中華妖怪(いちちゅうかようかい)に手に負える(けもの)じゃない」

なにか真剣な表情のマリアさん、そりゃヤマタノオロチに一人で立ち向かえるはずもないが、そんなの注意するまでもないだろうに。天佑さんもなにやら厳しい目を向けて

「アンナさん、やめときなさい。いつか自分の子どもをちゃんと育てきるのが貴女の真なる望みでしょう。彼、というか彼らは男性性の塊ではありますが、父性は無い。ヤマタノオロチに関わっても、彼彼らとの子を産み母と扱われることは永遠にありえない。ということは……理解できますよね。そんな結末などはカトリック仙人として友人の貴女に選んで欲しくはありません」

となにか説教っぽい口調で、

「あははーわかってますよ、ダメだって。それでも『ロクでもない男としか縁が結べない』という背景がある(あやかし)が私ですからね。そういうわけで、危険な香りが濃くとも魅力的な殿方を見つけてしまえば、どうしても欲しくなってしまいますね」

あ つまり、この言葉から推測するにアンナさんは「女が男を採点したうえで求める」そういう目をオロチに向けてたということか。うう、なんで私が赤面しなきゃいけないんだ。私も今回の旅で『知って』しまったのだから、こんな場面が来たとしても、もう変な劣等感なんて感じるはずもなく動揺だってしないとふんでいたのに。いまだ経験が圧倒的に不足しているということなんだろうか。しかし……なぜ姑獲鳥という妖が、ロクでもない男と縁があることになるのだろうか?

そんな雑念に囚われていたら、いきなり肩を叩かれる。
ふり向くとマリアさんがいた。

「大丈夫、烏丸はこないだから、全然足りてる」

「は、っはい。精進いたします」

反射的に答えた私。

「ここで精進って言葉は……いや、精進でありますよねぇ」

アンナさんは、なにかツッコミをいれてくれた。たぶん的確ななのであろう。

そんなこんなで年月を重ねまくった仙と中華妖怪による女性遊戯会話(ガールズトーク)がしばらく続く。こんな経験は初めてで、話を聞いても内容のホントウは分かっていたとは限らないけど、なぜだか私は茹でダコみたいに真っ赤っかで、二人が伝えたいところを感じとることはできていたのかもしれない。

ふと気づくと天佑さんがいない。辺りを見回したら、こちらの話が聞こえないくらいの距離、どこか呆けた様子で彼は時間をつぶしていた。そんな弛緩した姿でも「絵になる」と感じてしまうのは、こちらが惚れきってるゆえの感傷か。

「さすがだね」

「そうですよね。女性間の会話には距離を置く、理解していたとしても男とは元来勘違いしやすい生き物。なかなか実践できるものではなく」

言葉少なくマリアさん、言葉重ねつつアンナさん。我が夫へのその論評は、妻の私の耳にも心地良く。そんな彼、カトリック仙人の天佑さんがこちらに戻って来たときに、最終的な打ち合わせが始まる。その計画が実行に移されたとき、我らによって聖天大聖 孫悟空は打倒される。今回の旅がナニカの物語だとしたら、その最高潮(クライマックス)までもう少しだ。早く駆け抜けてしまおう。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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