2-19 うむ。向上を志した人の過去、実に尊い①【てんゆう、カウンセリング】

文字数 1,469文字

 なるほど出生の話か。これはまだ道中、話してもらってなかったな。視線をもってうなづくように涙目を見つめ続けて、ゆっくり、ゆっくりと続きをうながす。

「私の母は公家出身、この国、昔の貴族階級にあたります。それこそ箱の中で大切に大切に育てたような母様(かあさま)、そのような姫の腹にいつの間にやら(はら)み、その彼女が周囲の反対を押しきって命がけで産み落とした赤子が、そんな忌み子が、今の私となったわけです。そしてその姫君は信頼のおける召使い、『女房』と言いますが、その家に乳飲み子の預けて家から出奔、というか京の都から旅立ってしまった」

ここで一旦息をつぐ烏丸さん。『信じてよいのか』という言葉からの話であったが、その母を語るときの彼女は、どこか誇らしげなのが興味深かった。

「そして私が数えで5歳くらいのとき、それまでの育ての親のところに迎えがきたのです。『この度、徳川家に剣をもって仕えることになった柳生宗矩(やぎゅうむねのり)こそがアナタの父親である』と。つれていかれた先は大和国、今でいう奈良の、柳生庄という人の暖かな場所でした。『今日からここで暮らすのだよ』そして『そのためには宗矩の娘であることを、祖父石舟斎様の血を引くことを名乗ってはいないよ』と、何度も何度も伝え聞かされた。そのとき与えられた呼び名が『烏丸(からすまる)』です。烏丸とは女子(おなご)につけるような名ではないんですよ、だって烏丸というのは烏丸家、母が飛び出した家名のことなのですから」

 なるほど母親の実家、その家の名で呼ばれるようになったということか。祝福された名には思えぬよなぁ。

「名づけられかたは『どうか』と思ったけど、過去 女房の家であっても、それからの柳生庄でも、子どもの私に皆優しくしてくれました。『とても大切にしてくれた』と言っていいとおもいます。母親も柳生の里で暮らしており、出会ったときは親愛の情で瞳を濡らし抱きしめてくれた。陽当たりが良い場所に小さな(いおり)が与えられ、尾羽根の(ひめ)さまと呼ばれながら母は日々を送っていた。私もその側で育つこともできたはず、でも無理だったんです。母様(かあさま)に甘えることが、心許すことが……どうしてもできなかった」

みれば烏丸さんの麗しい瞳は、また涙に濡れ、綺羅綺羅(キラキラ)と光が反射。

「母だけじゃない、どこか周りが距離をおいているかのような、そんな疎外感に私は浸るしかなかった。そんな不安がずっと……ずっと頭を離れなかった。そして『それ』が、とても嫌な考えにへと辿り着きました。この身は本当に柳生宗矩の血を引いているのだろうか、そんな疑念にとり憑かれました。のちに一万石の大名にまで出世する将軍家剣術指南役、その飛ぶ鳥落とす勢いの『できる男の匂い』を嗅ぎとった母が、その人物と若い頃に情を交わしたと偽ったのではないかと。家に帰れない帰りたくない母は邪心をもって、そんな真っ赤な嘘を、柳生の皆を騙して、ただ自らの身の安全を計ったのではないかと、そんな泥々(どろどろ)とした疑いが、私の胸のうちに巣食い続けたのです」






烏丸家の姫さまが、柳生宗矩と……というエピソードは
山岡荘八先生の小説『柳生宗矩』を参考にしたというか
オマージュ元にしたというか、

つまりは山岡荘八先生設定の二次創作みたいになってます
歴史モノなので大丈夫、大丈夫

けど柳生但馬守宗矩、fgoで有名になっちゃったなぁ
やる夫で学ぶ柳生一族、で私は好きな歴史人物になりましたが
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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